遠征①
「タイタンの補充も計画に入れておきたいところですけど、そうなると、やっぱり魔石がネックになります。
そんな訳で、一回出稼ぎに行こうと思う訳ですが」
「光織たちもついて行きたいと。そう言っている訳だね?」
「ええ。移動は良いとして、現地で騒ぎになるかもしれないので、そこだけが怖いんですけど。何か対策はありますか?」
「“不人気ダンジョン”は、まだ健在なのだよ。人の目が煩わしいなら、人のいない所で戦えばいいだけなのではないかな?」
何をするにも魔石が必要。
そう考えると、どこかで魔石を手に入れておきたい。
俺はソロでもそれなりに戦えるので出稼ぎに行こうと思うのだが、光織たち3人が付いてきたいと言っている。
光織たち3人は目立つので、できれば騒がしいのを避けたい俺は、四宮教授に相談してみた。
すると四宮教授は、不人気ダンジョンを推してきた。
ゴブリンダンジョンは企業に押さえられたが、その他の不人気ダンジョンはまだ健在なのだから、そこに行けばいいと。
「僻地にある、雑魚しか出ない不人気ダンジョンは無くとも、モンスターや環境が不人気なダンジョンも多々あるのだからね。そちらに行けばいいのだよ」
「あー、そうなんですけどね。環境系の不人気は……」
ただ、不人気ダンジョンの名を冠するもののうち、環境系の不人気は俺も行きたくないダンジョンが多い。
最悪なのは沼地で、運が悪いと底なし沼に嵌って死ぬ。モンスターよりも、環境が厳しいのだ。
当たり前だが、俺だって油断すれば死ぬ可能性がある。
モンスター系の不人気なダンジョンは、ゴブリンのような「稼げない」ダンジョンでなければ、見た目などが最悪なモンスターばかりである。
バカデカい芋虫や毛虫、ミミズなどと戦いたい人間は少ないだろう。そしてゾンビなどの“腐りモノ”も、その臭いで脱落者を量産している。
もちろん、俺だって戦いたくない。
「それでも、見た目や臭いがアウトな場合は、まだ何とでもなるのではないかね?」
「ああ、成程」
俺が不人気ダンジョンの様子を思い出し、嫌な顔をしていると、四宮教授は原神の方に視線を向けた。
その意図は明白で、人間が戦いたがらないモンスターであっても、ロボットには関係ないと、暗にそう言っている。
特に原神は臭いセンサーなど付いていないので、ゾンビが相手でも気にしないだろうと思われる。
……それについて行く俺は、最悪な気分になるんだけどな!
「後は一文字君次第だよ。自分にとってのメリットとデメリットをよく比較したまえ。私から言える事はそれだけなのだよ。
一文字君。話は変わるが、これを見てくれないかな?」
方針が決まったので、あとは行くところを選択して、事前情報を仕入れ、備えるだけだ。
ただ、それと別件。四宮教授は新しい企画書を用意してきた。
「ダンジョン内部で薬草を栽培すると、何かありそうだよね! 鬼鉄と同じく何かしらの反応がありそうじゃないか!!」
四宮教授は、レベルアップしていない植物をダンジョン内で育てる実験を始めるようだ。
鬼鉄が、ダンジョン内でモンスターを殺したことで影響を受け作られたのなら、ダンジョン系肥料を使った栽培も、ダンジョン内で行えば何かあるかもしれない。そういう意図らしい。
「すまないが、タイタンを使わせてもらうよ。バッテリーについては、こちらでどうにかしよう。それで大丈夫かね?」
「あんまり大丈夫ではないと思うんですけどね。まぁ、バッテリーの魔石さえ大丈夫なら、構いませんよ」
俺のダンジョンは洞窟タイプ。明かりは無い。
日光が届かないし、ヒカリゴケのようなものも無い。真っ暗だ。
そんな環境で育てようと思えば、人工照明を含む、植物育成プラントを導入した方が良い。
ただ、人工物であるプラントを持ち込むとゴブリンが壊しに来るので、護衛の一人でも付けてプラントを守らないといけない。
タイタンをローテーションで配置し、警戒に当たらせることになった。
タイタンはタイタンでゴブリンを引き付ける事になるのだが、タイタンは自分で戦えるんだから大丈夫だろう、きっと。
ネックになるのは、やっぱり魔石だ。
タイタンのバッテリーに使う魔石は原神よりも燃費が悪いんだから、消費がデカい。
1日中稼働させようと思えば、相応に魔石を使う事になるんだけどな。
その魔石の調達さえ、四宮教授が自分でするなら、俺から特に何か言う事もない。
通常の何倍もの金を出して何とかするという事は、さすがに無いだろう。
どうやって魔石を入手するかは知らないけど、経費はこちらで落すから、領収書はきちんと出してね?