俺はこうして道を作り、
「ロードローラー作戦だっ! この大地をバイク乗りの天国に……っ。
はぁ、虚しい」
ダンジョンを下見した俺は、支倉さんに連絡を取り、ダンジョンのある山を譲り受ける事にした。
必要な書類を役所に提出し、今では俺のものとなっている。
その他、俺の所有する山とダンジョン山の間にある他の山も売ってもらって、かなり多くの山を維持、管理する事になった。
「そのほうが、都合が良いでしょう?」
支倉さんはそう言うが、ダンジョンを挟んだ先の山は要らなかったのだろう。
俺としては通行許可だけ貰えればよかったのだが、ダンジョンのついでに色々と押し付けられた訳だ。
そんな訳で、俺はロードローラーをレンタルして、簡単な道を作っている。
俺の山からだと、マジで道が無かったからな。
簡単に切り拓いて、軽く下準備をして、それから小型のロードローラーで均しているのだ。
ロードローラーを運転するために、わざわざ十時間の特別教育を受けてきたんだよ。
特別教育だけだと公道は走れないが、私道なら問題ない。あとは普通免許で十分なのだ。
こうやって道を作る作業は、とても地味だ。
だけど大事な事なので、手を抜くわけにはいかない。手を抜いて、あとで困るのは自分なのだ。
「だけどもなぁ。先は長い。
鍛冶をするにも、準備が大変だ」
鍛冶をやってみようと決めて、やるべき事を調べた。
最近は魔法使い用の小型鍛冶設備があるので、それを買う事にしたのだ。
ただ、需要があまり無いため少数生産と、量販品ではないから、予約して物が届くまで2ヶ月ほどかかる。
それまでは周辺の整備をして時間を潰すしかない。
道を拓いたら、ダンジョン前に駐車場を含む広場を作って、コンテナハウスを置いて、ダンジョン内も整地する。
2ヶ月はあっという間に経ってしまうだろうけど。
「準備をやっている最中は、時間の進みが遅いんだよな。
思い出す時にイベントが少なくって、やってる事の量じゃなくて数が少ない、だから時間が早く経つって感じる仕組みだとさ。
結局、時間の進みは変わらねー訳だ」
危ない人のごとく、独り言を言いながらも、ロードローラーが地面を踏み固める感触に意識を向け続ける。
すると、途中で車体が少し斜めに傾いた。
一部がゆるい路面だったようで、バランスを崩したらしい。
俺はロードローラーをバックさせ、降りて道を確認する。
左端が大きく凹んでいた。
「そろそろ魔力がキツイってのに。≪石壁≫っと」
凹んだ路面をどうにかするため、俺は≪石壁≫の魔法で凹んだ部分を補修した。
≪石壁≫は、本来は自分の前に石でできた壁を作る魔法である。今回は路面の凹み分の高さまで壁を作ったのだ。
「あー。マジでそろそろ魔力補充に行かないと。
ガス欠はマジ勘弁」
魔法は、術者の魔力を消費する。
で、術者の魔力は、ダンジョンでのみ、自然回復する。
魔力回復薬、通称『MPポーション』という液体の薬もあるけど、こんな所で使うほど安いアイテムではない。ダンジョンに行って自然回復させるべきだ。
ぶっちゃけ、MPポーションって不味いし。できれば飲みたくない。
他には魔石から魔力を抽出する方法もあるけど、これはあまり推奨されない。モンスターの魔石から魔力を抜くと、気持ち悪くなるからだ。下手すると倒れる。
これは人間の魔力と違い、モンスターの魔力が有害だからと言われている。人間の体内魔力とモンスターの魔力が反発し合うため、魔力を吐き出してしまう事もある。
その為、モンスターの魔石はマジックアイテムの燃料として消費する方が一般的だ。アイテムは人間と違って気分が悪くならないからね。魔石も利用方法はあるのだ。
なお、魔力が枯渇すると気分が悪くなる。
魔力が切れると疲れでダルいとかしんどいとか、体が重く感じるようになるのだ。人によっては眠くもなるらしいが、俺の場合は頭が痛くなるので、眠気は感じない。
体調が悪くなるので、モンスターの前で魔力切れになるのは危険なのだ。だからそうならない様に、魔法が使える奴は魔力管理に気を遣うのが常識であり、基本だ。
特にダンジョン外での魔力枯渇は回復手段が限られるので、MPポーションを飲ませるか、ダンジョンに担ぎ込むしかない。
魔力を枯渇させて魔力最大値が増加という裏技も無いようなので、魔力を枯渇させないように、俺も初心者のうちに叩き込まれているよ。
いわゆる、レベルを上げて身体能力を強化するようなのにも魔力を使うので、ダンジョンで強い人が外でも無敵とか、そんな事はない。
高レベル、魔力が切れればただの人。という訳だ。
高レベルな保有できる魔力が多い人ほど怖い事もできるけど、どれだけレベルを上げようが、何でもできる化け物にはなれないのである。
魔法抜きで道を整備するのは、とても手間がかかる。
俺は何度もダンジョンと山を行き来して、チマチマと道を整備する事になるのであった。