海外のダンジョン事業
日本勢がそうやって頑張っているわけだが、海外勢だって負けていられるわけがない。
海外は海外で、その土地に合ったロボット開発をしていた。
「アメリカはゲーム、エンターテイメント路線をそのまま推し進めてきたな」
「妥当ではあるよ。資金の回収をするのに都合が良いのは、どんな方式なのか。既存の路線を継承するのは王道なのだよ」
アメリカは、ゴブリン退治をゲーム化する路線を継承してきた。
元々、銃規制の緩いアメリカではゴブリン退治を娯楽として提供する体制が整っていた。
銃を装備したドローンをダンジョンに送り込み、ゴブリンを探しては撃ち殺す。『ゴブリンウォーカー』という事業が成立するような土地柄なのだ。
今回はゴブリンと格闘できるロボットを用意し、アーケード、テレビゲームのようなバトルが出来るようにしていた。
「アメリカは、こういったハンティングゲームが大好きだからね。他がやっていない事をするというのであれば、こういった方向性も間違いではないのだよ」
「ソフト的に、コマンド操作って、可能なんですか?」
「可能だよ。ゲームのような安定性、一定の動作をするように組めるわけではないけれどね。けれど、移動や攻撃、防御などの選択をプレイヤー依存にするぐらいは現実的な範囲であるね。
ロボットの修理費用を考えると、本当にゲームとして成立するのか疑問ではあるけれど、これはこれで面白い、人を集められるロボットであると思うのだよ。なにしろ、お金を貰えるゲームを通して様々なデータが収集できるのだからね。これならロボットの修理費用もかさまないだろうさ!」
四宮教授は、これをアメリカらしいと笑っている。
新しい事を始めるのはアメリカの方が上だし、ハンティング好きな国民性に合わせた行動もきっちり取っていると説明する。
趣味と合理性を兼ね備えた、日本では出来ない方向性だと言う。
「日本の場合はね、同じ事をやってもお客が集まらないと思うのだよ。
あのゲームはロボットが受けるダメージを客が補償するシステムのため、一回のプレイ料金が高いし、壊してしまった後の追加料金も発生する。
そもそも、ハンティングに興味のある人間が少なすぎるのだよ。今の日本人向けの娯楽でないのは間違いないね」
「そういうものですか? 他には無い娯楽であれば注目も集められるし、事業として成立しそうな気もするんですけど」
「何より、今の日本には使えるダンジョンが無いのだよ。そういったダンジョンはもう、企業が抑えてしまっているからね。ロボットを用意する費用もあるのだよ。そのために高いお金を払ってまでダンジョンを買い取る体力は、どの会社にも無いという訳さ」
そういうものだろうかと疑問に思ったが、次の一言で納得するしかなかった。
「では、一文字君がやってみるかね? このダンジョンをゲーム用に開放し、タイタンの研究開発リソースをゲーム用ロボットに振り分けてみようか?」
「あー。いえ、いいです、はい」
そうだよなぁ。
自分も、自分でやろうなんて考えていないし。他の誰かがやるんじゃ無いかと思うぐらいだ。
アメリカ人は、ハンティングが好きだから、情熱を持ってリソースを突っ込んでいったのだろう。
そして元からそういった目的でダンジョンを確保していたからそっち方向に進めたという考え方もある。
日本とは環境が違うのだ。取り得る選択肢の方向性が違うからこそ、ああいう事が出来るのだろう。
「もちろん、他の国もそうだよね」
日本と違う事を始めているのは、アメリカだけでは無かった。
「イギリスは日本と同じ島国で、海洋国家ですけどね。それでも、船を造るというのは、想定外ですよ」
イギリスはイギリスで、ダンジョン対応の船を建造し始めた。
これは世界でもかなり珍しい行動である。
ダンジョンは、ランダムに消滅する。
どこかのラノベのように、ダンジョン最奥のダンジョンキーパーやダンジョンコアをどうにかすると壊れるとか、そういった人間側の制御で防げるものではない。
そして、ダンジョン内部に有った物は、それに巻き込まれて消滅する。
ダンジョン内部で船を建造した場合、ダンジョン消滅に巻き込まれ、一緒に消える。
だからダンジョン内部で船を造ったりする国は無かった。リスクが大きすぎる。船を造る費用がもったいないとしか考えない。
船を造るのには時間がかかるし、実働するまでにダンジョンが消えたらどうするのだろうか?
メリットはあるのだろうが、それ以上にリスクが大きい。
イギリスの行動は、俺の理解の範囲外だ。
「あちらにはあちらの考えがあるのだよ。そこで利益を出す何かを見いだしたのでは無く、それを行った事で得られる物を利益としてカウントしていると見るべきかもしれないね」
「俺にはよく分かりません」
「そんなものだよ。我々の視点は、あくまで一般人の、近視眼的な行動に過ぎないのだからね。国家百年の計を見定めるには、見えていない物が多すぎるのだからね」
ダンジョン内部での造船。
そのメリットとデメリット。
何を得られるのか、それは一個人でしかない俺には分からない。
アメリカやイギリスだけでなく、他の国だって負けてはいない。
表に出していないだけで、裏ではもっと色々とやっているはずだ。
ダンジョン関連の技術開発はどの国も力を入れていて、国ごとの独自色が強くしていった。
その中で、日本は他国に引けを取らない“何か”を、誇れる物を作り上げないといけないわけで。
それがどれだけ難しい事なのかは、自己主張の強いニュース記事を眺めるだけでもよく分かるのだった。