付喪神プロジェクト
「先を越されるだなんて……」
俺はスマホニュースを見て、思わず驚きの声を上げた。
「そこは、『悔ジーザス!!』じゃないのかね?」
「あ、いえ。そこまで悔しくはないので」
横では四宮教授が何か言っているが、それは聞き流す。
「ロボットを強化するロボット。まさか余所が、俺たちより先にパワードスーツの原型を作るとはなぁ」
スマホの画面は、とある会社のプロモーションムービーを流している。
ロボットがロボット操縦する、そんな動画だ。
「皆様に愛されたロボットが心を持つ可能性が! 懐かしの、あのロボットたちを背に乗せ、『機神兵』がダンジョンで暴れ回る!
『付喪神プロジェクト』は、ただいま参加ロボットを募集中!!」
簡単に言ってしまえば、どこぞの自動車会社は、光織たちのような、心を持ったロボットをもっと作りたいという、そんな夢を叶える計画を打ち立てたのだ。
『付喪神プロジェクト』と銘打ったその計画は、ロボットをもっと大きなロボットに搭乗させ、レベルアップを図る計画である。
奇しくもそれは、俺たちがパワードスーツを作るために立てた中間目標のように、ロボットがロボットを身にまといダンジョンで戦うというものだ。
こちらは最初から戦える原神を使いその補助・能力拡張をしようと考えているが、あちらは全く戦う力を持たないロボットをレベルアップさせるというもの。
言うなれば、体内に植物を入れて戦うタイタンのような使い方なので、細かい事を言い出せば俺たちの後追いとして見るのが正しいのかもしれない。
「でも、先を越されたって考えちゃうよなぁ。まさか、俺の発言がこんな事になるだなんて」
「多くの日本人にとって、心を持った人型ロボットというのは悲願の一つだからね。そこに至る可能性があるのなら、たとえ可能性が低くとも、賭ける誰かがいる。そうやって夢を追い求めた誰かがいるからこそ、日本はここまで進んできたのだよ!
金稼ぎにしか興味の無い俗物が多くいるのは否定しないがね。人生をなげうつ情熱もまた、存在していたのさ!」
「日本も、まだ捨てたもんじゃないわけですね」
「その通り! 特に今は、他国に技術大国の地位を追われたという自覚があるのだから、返り咲くために必死な人間もいるのだよ!」
今の日本は、親世代が子供の頃の豊かさが失われ、心に余裕がなくなり、夢を見る人が減っていると思っていた。
だけど、四宮教授はそうじゃないと言う。
技術大国としての地位は奪われてしまったが、だからこそ、復権を目指し立ち上がった人もいるのだと力説した。
「自分たち日本の技術者は、今では二番手未満なのだよ。一番手だった中国がモンスターに飲み込まれ消えたとはいえ、まだまだ三番手になれるかどうかといった所。
それが今、一番手に返り咲くチャンスなのだからね。ここで奮起しない者に、栄光は無いのだよ」
半導体の分野で、日本は台湾や韓国に負けている。と言うよりも、日本の半導体産業は他国に大きく負けていて、トップ争いどころかボリュームゾーンにも入れない有様。
得意の車産業も世界を見れば上には上がいて、会社一つ一つを見ればドイツや韓国に押されている。国全体、総合力ならばトップであるが、絶対的優位など持ってはないのが現実。
日本の技術は世界に通用しない分野の方が多くなりつつある。
そこにきて、日本が再びトップに躍り出られるかもしれない光明が見えたのが、今のダンジョンロボット産業だ。
細かい事をいえば、日本の技術はまだまだだと言う。
しかし、話題をかっさらった原神は、日本発のロボット。人型ロボットがダンジョンで通用する事を証明したのも日本で、さらに次々と新しい発見がなされた。
ダンジョン関連事業はまだまだ未発達な分野であり、どの国の技術も最先端と言える。
巻き返しなどという言葉が使われるにはまだ早く、誰もが手探りで暗闇を走り抜けているところだ。
そこから一歩抜け出したという証明には、今の流れに乗って他を制するぐらいでちょうどいい。
創作界隈の人気ジャンルには、女性ばかりの世界に主人公で有る男が紛れ込み、ハーレムを作るというものが有る。
女性が多くいるのだから、特別な人間でなくとも自然とハーレムが出来ると言う流れだ。
この主人公は、大して凄くないキャラでもハーレム王になれるというお話なので、そういった世界が求められる。
だが、逆に男の方が多い世界で数少ない女性を魅了しハーレムを作る主人公がいるとしたら、その主人公はどれだけ特別なのだろう?
普通のキャラではそんな事が出来るはずもなく、その他大勢に埋もれて消える。
そんな世界のハーレム主人公であれば、他のライバルキャラを圧倒し、異性を惹き付ける魅力、特別性が求められるというわけだ。
ライバルゼロで単独首位になる。
数多のライバルと競い、ぶつかり、なぎ倒し、勝利する。
凄いと思われるのがどちらかなど、語るまでもないだろう。
なお、例えで出したハーレム主人公は「凄い主人公」を求められて存在するわけではないので、後者と比較するのは筋違いだと及川准教授に怒られた。
「それはスイーツとラーメンに求められるものを無視して、味の勝負をするようなものですよ。どちらも食べ物だとひとくくりにするようなまね、普通はしませんよね。
比較するのであれば、ジャンル違いをしてはいけません」
でも、言いたい事は伝わると思うので、勘弁してください。
ここで一番手になるためなら、会社の総力を費やしてでも前に出ようという気概を見せる場面、らしい。
「もちろん、それに失敗して潰れた企業もあるのだよ。誰もが勝者になるなど、そんな幻想は存在しないのだからね。
『付喪神プロジェクト』は、失敗したときに多くの負債を抱えるリスクもあるのだよ。
ただ、成功すればとんでもないインパクトを社会に与えるだろうね。それこそ、他の追随を許さぬ盤石な地位を得られるかもしれないね」
勝負を賭けた先に何も無く、潰れていく企業もある。
そこにたどり着けなかった敗者が顧みられる事はなく、誰の目にも触れられず、消えていく。
だからこそ、勝負に勝った企業は賞賛される。名誉を得る。リスクを超えた先の栄光だけが輝きを放つのだ。
勝者の放つ光の強さは、影の濃さでもあった。
そして『付喪神プロジェクト』は、本当に自我持ちロボットを生み出していくのであった。