鬼鉄②
合金の名前は、『鬼鉄』とした。
「ああ、うんん。いいんじゃないか?」
「ストレートで分かりやすい名前だね」
ゴブリンを漢字にすると、「小鬼」となる事が多い。
『小鬼鉄』は俺的に微妙だったので、『鬼鉄』である。
周囲の反応は微妙だったが、そこはもう諦める。
さすがに『ゴブニュウム合金』とか、どこかのロボットアニメのパクリのような名前を付ける勇気は無かった。
これからテレビで報道、拡散される名前だ。残念臭が漂おうとも、無難な名前の方が助かるんだよ。
「と、このように、鉄とゴブリンメタルを混ぜ合わせ――」
番組を企画するのがプロデューサー。
実際に番組の制作をするのはディレクターさんの仕事だ。
ディレクターさんと打ち合わせをして、素材になる映像を撮影する。
中にはやらせ、実際にやっていない事をやっているかのような映像も要求されたが、そこは大人しく従っておく。
実際にやっている所を撮られるよりも楽だし、本番で変に気負って何度もリテイクするのは嫌だ。
あと、炉に火を入れていられる時間は制限があるので、そこまで時間をかけられないのである。
「全部教えちゃっているけど。本当にいいの?」
「構いません。これで儲けようというつもりはありませんから」
鬼鉄を実際に作っている所を報道する。
現在出回っていない合金の話だけに、ディレクターさんはこちらに気を遣い、今後の事も考えてか、俺に念を押してきた。
別にいいんだけどな。
ゴミ扱いされているゴブリンメタルのリサイクルになるんだから、鉄不足が叫ばれる昨今の情勢にマッチする。
実際にどこまで広まるかは未知数だけど、そうなったら面白いと思う程度だ。
まぁ、ダンジョンが見つかって12年も経つのにこの手の合金が使われていないんだから、プロの目には俺には見えない欠陥が見えているのかもしれない。
もしそうなら、どこかの情報番組でその情報が流れる事だろう。
そうなったら、その時はその時。その理由次第では、俺もゴブリンメタルから手を引くかもしれないね。
俺だって、熔かすときに人体に悪影響があるとか、そんな致命的な理由があるのであれば、これ以上は手を出さないよ。
趣味に命を懸けるつもりは無いのだ。
鬼鉄関連の情報は、俺が考え付かないほど、世間を驚かせた。
というのも、製鉄メーカーは同じようなことを考えて合金を作ろうとしていたが、その成功例が無かったのだ。
「この番組で出てきた『鬼鉄』ですが、他の所では製作できなかったという話が出ています。鉄とゴブリンメタルが混ざり合わないという話です。
なぜ、この番組中で製作したものは合金にできたのか、その詳細はまだ判明しておらず――」
おかげさまで、俺は「詐欺師」や「ホラ吹き」と、そう言われている。
現物があるので反論は叩き潰せるのだが、「なんで?」という問いかけには答えられない。俺は、そういった事を検証したり証明する科学者ではないのだ。
そのせいで、叩き潰せるはずの悪評は簡単には収まらない。
「何故?」などというのは、むしろ俺の台詞であり、余所で作れない理由を調べて欲しいと、切実にそう思う。
「ダンジョン内で鍛冶をしているから、それが理由じゃないのか?」
「それぐらいの検証はもう行われた後だよ。ダンジョン内で同じ炉を使い、鍛冶の部分は趣味で鍛冶をしていた他の冒険者の手を借り、わざわざ使う道具まで条件を同じにしたと聞いているよ。
ここまでやって駄目なら、あとは原神を貸し出すしかなくなるね!」
まったくもって、不思議な話だ。
ゴブリンメタルが単体で使えない金属であっても、合金にすれば使い道が生まれるかもしれない。
こんな当たり前の発想は誰でもできる事なので、先行する誰かがいると思っていた。
俺は鉄にゴブリンメタルを足す事で合金と言い張っているが、中にはゴブリンメタルに少量の錫とかを混ぜて、鋼のような金属を作っているかもしれないと、そんな事も考えていた。
それが、合金化できないといって手つかずというのは想定外だ。
何かが足りない、何か余計な事をしてしまっている。
そのどちらかは知らないけど、軽い気持ちで情報を流した結果、話が大きくなりすぎて俺の手には負えなくなってしまった。
情報化社会に投げ入れられた『鬼鉄』は波紋を広げ、世間を騒がせている。
今はゴブリンメタルが話のメインになっているけど、ダンジョンからはもっと希少な鉱石類もドロップしているわけで。その加工に一石を投じるかもしれないと、注目されてしまった。
もっとも。
「ダンジョン鉱石の合金化は、『ダンジョンで熔かす』だけでなく、『熔かしている最中に一定数のモンスターを殺す』事と判明!」
数の暴力、大企業の本気の前に、条件はあっさりと判明して俺にはそこまで影響を及ぼさなかったのだが。