鬼鉄①
ロボットというネタを使うだけでは、早々にやる事が無くなる。
バラエティーのタレントというのは、個人の魅力が無ければレギュラーには成れず、俺の様な一芸担当は一回二回顔を出したら、それで終わり。
テレビ映えするキャラとか、タレントオーラが必要とでも言えばいいのか。
そんなものを生まれ持ってもいなかった俺は、芸能界にちょっとだけ伝手を作ったらすぐに飽きられる。
そう思っていたんだけどね。
「味覚の無いロボットが作った料理なんて、と思いましたけれど。ここまでの物を作れるとは思っても見なかったわ。
光織さん。貴女、良いセンスを持っているわよ」
俺はともかく、原神たちはタレントとしての才能が有った様である。
出演者として俺の出番は終わったけど、マネージャーとして引き続き頑張って欲しいと何人かの番組プロデューサー達に土下座された。
「頼みますよ! このとーりです!」
「こちらも本業があるんですけど……」
「そこは最大限配慮します!
そちらの保有するダンジョンだって、そこまで広くないでしょ? それに毎日モンスターと戦わなくても大丈夫じゃないですか。あの、タイタンが今はメインで頑張っているって言っていたじゃないですか。
だから光織さんたちには、ダンジョンに潜る合間に、こっちの番組に出演して欲しいんです」
光織たち原神には話題性がある。
そして他の自我持ちロボットの出現が聞こえていない以上、唯一無二なのでテレビに出すだけでかなりの数字を確保できる。
テレビ局の偉い人であっても、土下座するだけで原神たちに出演してもらえるなら安いものだと割り切れるだけの話だったのだ。
「まぁ、あの子たちもダンジョンに潜らないと魔力が回復しませんし、そういうのは困るので、そこまで頻繁に出演は出来ないと思いますけど。たまになら、まぁ」
「ありがとう! よろしく頼むよ!」
ちょっとしたコネ作り。その予定だったんだけど、大きく予定が変わってしまった。
けど、コネを作るっていう事は、定期的に手を貸しておく、大きく恩を売る事でもある。
多少の手間は、必要経費と割り切るしかない。
これがその後に繋がる、一つの流れを作った。
「へー。一文字君は鍛冶もやってるんだ」
「そうなんですよ。ネット情報頼りの素人仕事ではありますが、数を熟したから、自分でも納得できるものができつつありますね」
全国報道されてしまったので、俺の情報はすでに拡散されている。
こうなっては開き直ってしまった方が楽である。
俺は自分の所有する山、ダンジョンに報道関係者を連れて来ていた。
「普段は光織たちが奥に行っている間にゴブリンメタルの合金を打つ感じですね。ゴブリンメタルをそのまま使うよりも強度があって、魔力特性も鉄より良くなるので、実戦投入可能なものに仕上がっていると思いますよ」
そこで俺は、ゴブリンメタルと鉄の合金について説明していた。
こういった情報は秘匿した方が有利だとか言われるかもしれないが、残念ながら、製鉄会社の大手がこの分野に手を付けていないとは思わない。
だから情報を秘匿することなく、一般に紹介してやった。
合金関連の情報は、ネットでも出回っていない。
ダンジョン素材を使った鍛冶関連動画がアップされているものの、合金について触れたものは無いので、そこそこ新鮮味はあるだろうと、俺の視点ではその程度の認識だ。
「いいねー。これ、どの程度、放送しちゃっていいの?」
「全部放送していいですよ。隠すほどの物ではありませんから」
「グレイト! ちょっと待って! これは別で使いたい!」
番組プロデューサーのオッサンは予想以上に食いつき、合金を面白そうに見ていた。
この人は俺の倍ぐらいの年齢だと思うが、新しい物が好きで、自分がワクワクしたいからこんな仕事をしているんだと胸を張る、悪ガキがそのまま大人になったような性格をしている。
合金を手に、叩いたり擦ったり舐めたりしていた。……舐めるなよ!?
「けどさー、一個だけ問題があるよね」
「問題?」
「そうそう。この合金、なんか、イイ感じの名前が欲しいじゃない。こう、ビビッとくる名前、付けてあげない? 今のままだと「鉄―ゴブリンメタル合金」でしょ。呼びにくくってさぁ」
またこれか。
名付けの時間だよ。
俺の一番苦手な、頭を使う仕事が発生した。
「いや、元から名を付けるようにと言ってきたつもりだがね?」
四宮教授は「それは私が考えるべきではないね!」と手伝いを拒否し、呆れたような目で俺を見る。
プロデューサーとディレクターさんは、そこはかとなく白い目で俺を見ている。
光織たちは助けてくれない。
四面楚歌である。
「最悪、自分の名前を付けるという手があるね!」
「それは嫌だっ!」
どこのナルシストだよ!
自分の名前がそんなふうに残るのは嫌だ!
何でもいいから、さっさと名前を付けてやるよ!!