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罠設置

「たまに思うんですけど、ダンジョンから魔力を汲み上げてマジックアイテムを使えると、便利なんですけどね」

「現状、そのような技術は存在していませんね。光織さんにも頼んでみましたが、無理だと断られましたよ」


 防衛網を作るという事で、監視カメラの増設や、鳴子、スネアトラップ(足引っかけ)や落とし穴などの罠を設置してみた。

 監視カメラはともかく、落とし穴を掘るのは、実は違法である。

 狩猟関連で罠を使うのに許可が必要で、それ専用の免許もあるんだけど、落とし穴は「人間が引っかかるかもしれない罠」なので使ってはいけないと、そう定められている。


 今回はその対人目的なので、やっちゃいけない事だけど、やる。

 普段は「人間を巻き込まない」ものだけど、「動物を巻き込まない」のが目的のため、動物ならこの臭いで避けるだろうという、動物が嫌う異臭を目印にしておいた。



 ここにはダンジョンがあるんだし、それを上手く利用できたら最高なんだけど、困った事に、上手く使うための仕組みが、今の俺には無い。

 マジックアイテムの類いは、魔石から魔力を抽出するタイプのものはあるけど、ダンジョンの魔力を汲み上げる事はできない。そしてゴブリンダンジョンから得られる魔石は最低ランクのため、防衛網を稼働させ続けるのには向いていない。

 と言うか、それができたとしても、魔石を売ってお金に換え、得たお金で防衛網を構築した方がよっぽど効率が良い。


 できない事を口にしつつ、いずれできるようにするための研究を誰かがやってくれないかなと、無線機でつながっている及川准教授に愚痴をこぼす。

 いずれ出来るようになるかもしれないけど、それは今ではないから、今は今できる事をやるだけなんだけどね。それでも、愚痴でも言っていないと、やってられない気分にもなるんだよ。



「落とし穴はともかく、これは禁止されていないんだよな」


 俺はスネアトラップ、背丈がそこそこある草同士を結んで、足を引っ掛ける罠を作りながら、すぐ近くに落とし穴を掘る六花に目を向ける。

 これは見え見えのスネアトラップを設置することで「こんな罠に引っかかるかよ」と相手を油断させ、落とし穴で嵌める古典的な心理作戦である。

 よくある手法だけど、王道であり、効果的だからよく使われるのだ。


 何度もやればパターン化で相手が「こうだろう」と思い込むので、その後は変化を付け、罠に仕掛けるといった配置も行う。


 スネアトラップや落とし穴を使うのは、原始的な罠の方が最新鋭の装備でも簡単に見破れないからだ。

 電磁センサーに反応する監視カメラなんかの設置よりも、こういった古典的な罠の方が有効なんだよね。

 デジタルはデジタルで有効だけど、場面によってはアナログの方が強い。なにしろ、電気を食わないからね。放っておいても大丈夫なのだ。


 なお、設置した罠は後で確認できるように、地図にマーカーを付けておいた。

 山のあちこちを見て回るなんて事はしていないけど、何か理由があって色々と歩くようなら、設置場所ちゃんと確認できないと怖いからね。

 その程度の事は当たり前だし、やっておくよ。





 こういった罠を仕掛けるのは、実は楽しい。

 何かあれば、下手を打てば自分に被害が出てしまうのだが、それでも罠を仕掛けていくのは、子供の頃の「秘密基地」を作るノリなのだ。

 男の子だった身としては、童心に返った気分になる。


「進路に使われそうなルートは、大体押さえましたね」

「人目を避けるためとか、こっちが予想してないところを通る可能性は否定しませんけど、それでも限度って言うものがありますから。

 まぁ、多少の足止めにはなるでしょう」

「問題は、全く関係ない、不法投棄をする連中にまで被害が出る事です。ここが一文字さんの山とは言え、罠を作っていると知られてしまえば、法的にはこちらが悪者になってしまいますから」

「監視カメラを設置していると、ロープを張った上に大々的に書いてあるんですけどね。何でそこまでして家電の廃棄をしていくのか。理解に苦しみますよ」


 しかし、現実は非情である。

 自分の土地を守るため、ロープを張って私有地であると主張している俺であるが、その防衛は「人道的」なものに限り許されているだけで、今回設置している罠のような、攻撃的な防衛手段はやってはいけないのだ。

 不法侵入者といえど、怪我をさせずに捕らえ、警察に突き出す事しかできない。罠で怪我をさせるなど、法的には以ての外なのだ。


 こちらの命を狙っているかもしれない犯罪者相手であっても、先制攻撃で殺してしまえば、良くて過剰防衛、悪ければ殺人犯で捕まってしまうのが日本の法律だ。

 こればかりは「他人の敷地に不法侵入する方が悪い」という考えが通用しない現実を恨みたくもなる。

 「それを許せば悪用されるかもしれない」と、そう言われればそれまでだが、限度というものがあるんじゃないだろうか?



 この山を売ってくれた支倉夫人に話を聞いてみたところ、やはり何度かどこかの業者が産廃を捨てたり、近所の誰かかもしれない人が粗大ゴミを山に捨てていくのだという。

 そういった連中への取り締まりと罰則を強化して欲しいと思いつつ、俺たちは罠を仕掛けていくのだった。

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