防衛網
馬鹿みたいな責任追及の話は、日本だと「海外で馬鹿が馬鹿な事を言っている」という扱いだ。
海の生物、特に鯨の保護を掲げる豪州の某団体が、海洋汚染をしながら捕鯨船を攻撃するのと同じ扱いである。他に例えるなら、まともなヴィーガンから白眼視される、ヴィーガン教が肉屋を襲撃したり養鶏場を破壊して鶏を周囲に放り出したようなものか。
いずれにせよ、事実を無視して騒ぐ彼らは、言っている事とやっている事がかみ合っておらず、いない・やらない方がマシの犯罪者集団と同レベルなのである。
これが前時代であれば、テレビで取り上げられた情報を鵜呑みにする大衆の姿が見られるのだが、この情報化時代、今を生きる者にしてみればだまされるのは情弱ぐらい。
ちょっと調べれば俺の事なんて間違った情報のオンパレードであるのが分かるし、SDGsの使い方もズレているのが明白だ。
それでも騙される人間はそこそこ出てくるのだろうが、大多数は騙される事無く、騒いでいる人間を冷めた目で見る事だろう。
「最悪を想定するのであれば、今後襲撃を行うための布石、印象操作の一環でしょうね」
「悪い噂が一度でも流れた、誤った情報であれ、「悪い事をしているかもしれない」と考えさせるきっかけという奴さ! 想像していなかった“人の裏側”を想像させるための常套手段だね! 噂で騙す事が目的では無いのだよ!」
ここに常駐しているお二方は最悪を想定し、一応は警戒を促しているが、それでも大した脅威は無いと考えている様子だ。
この状況下で何も考えずに生きるのは阿呆だが、警戒しすぎるのは臆病者。
手を一つ二つ打っておき、恐怖に捕らわれないで、泰然自若といった態度でいれば最善だと、そう態度で示している。
「ここに籠もっていれば相手が諦める、そこまで都合のいい話はありません。ですので、少しだけ周辺の警備網を強化しましょう。
監視カメラと防犯設備を増強し、少しでも時間稼ぎができるようにするのです。相手の攻撃そのものは防げなくても、襲撃があったときの警報代わりになりますし、ここが襲われるまでの時間稼ぎになりますからね」
「ここに来るまでの道にも、監視カメラを設置する許可を取り付けておいたのだよ! ロードマップのサイトに映像をアップするのが条件になるけどね!
ああ、もちろん、こちらには常時映像記録が残される事になるよ。ここを襲撃しようという連中は、大規模であれば、ほぼ確実に自分たちの情報を残す事になるだろうね。
今回のやりとりそのものは隠していないから、我々が警戒している事は伝わったと思うよ!」
及川准教授は、山の警備レベルを上げるようにと進言してきた。
それは分かる。経費はかかるが、経費ほどの効果が見込めるかは未知数だが、それが何もしない、“効果ゼロ”になる事は無い。相手の行動にわずかでも負荷をかける、無理を強いるというのは分かりやすい。
この周辺の土地は俺の持ち物なので、勝手に動かなかったのも好感度が高い。今は及川准教授も日参、常駐しているが、そこまで勝手をされると不快だからね。
逆に四宮教授は、こちらの許可を得なくてもできる事を始めていた。
公共の道路に監視カメラを設置、映像がアップロードされるように話を付けていた。
これにより、相手は情報の隠蔽が難しくなるので、大規模な作戦行動に出られなくなる。そして行動を隠さない事で、相手を牽制していた。
「もっとも、相手が犯行声明を出すような、劇場型犯罪者であれば何の意味も無いどころか逆効果なのが難点だね!」
なお、牽制が効くかどうかは、相手による。
一部の馬鹿どもが相手の場合は、逆効果らしい。
万能・完璧な対策は存在しないから、一部の連中を押さえ込めるだけでも良い事だと思うけどね。
できれば、事前に相談して欲しかったとは思うよ?
そういった安全対策を行うにしても、先立つものは必要だ。
つまり、お金の問題がある。
四宮教授はタイタンの装甲を売ったときの分け前から支払いをしたようで、そこは個人の分配金だから、俺がとやかく言うものでもない。自分の財布から出すのであれば、お金の使い方は個人の自由だ。
及川准教授は個人資金ではなく、鴻上さんを含むパワードスーツ開発チームの資金から、今回の防衛費用を出すように提案している。
これには鴻上さんも賛成し、目に見えるリスク、しかも危険性の高いものは無視してはいけないと、リスクアセスメントという言葉を使って「やりましょう」と言っている。
「安全は目に見えない投資先ですが、何かが起きたとき、有事の際を考えると、絶対に疎かにできない、してはいけないものですよ。ここでお金を惜しむべきではないと思います」
「リスクレベルの高いリスク要因は、何らかの対策を取ってレベルを下げないとイカンのです。そうする事で、より大きな利益が生み出せるってもんですよ」
ロボット開発者や工場運営者は、リスクと言う言葉を重視する。
特に鴻上さんは、工場で事故を起こし死者を出すような最悪の事態を避けるため、毎年リスク管理を行い、計画書を書いたり実効性の検証をしたりと、色々とやっていた。
中にはやり過ぎのような話もあったけど、「これでも対策は十分とは言えないです」と、慎重な姿勢を見せている。優先順位の上下こそあるものの、そこに妥協の二文字は存在しなかった。
「他にも避難所など、緊急時の逃亡先を作りましょう! こういうときのお約束ではダンジョンに逃げ込めるようにするのですけれど、実際にそういった選択ができないのは面白みがありませんよね」
「個人用のシェルターでも購入するかい?」
「それ、棺桶になりそうだから止めておきます」
一瞬だけ、原神やタイタンを量産、配備して身を守る事を考えたけど、さすがにそれは無理筋だな。
さすがに、そこまでやる資金はないからね。