海外の馬鹿なニュース
ダンジョンが現れて、既に11年程経っている。
いや、そろそろ12年目に突入か。
ダンジョンを取り巻く環境は、ここにきて大きく様相を変えようとしている。
人力で行われていたダンジョン産業に、機械化の波が押し寄せている。これも一つの工業化と言えるのだろうか?
まだまだ初期段階のため、低レベルでもなんとかなるゴブリンダンジョンを中心にロボットが活躍しているんだけど、ロボットたちが高レベルになっていけば、もっと上のダンジョンにも投入される事だろう。
俺はすでに一線を退いた身なのであんまり気にしないけど、最前線にいる連中はともかく、そのすぐ下の連中は気が気でないだろう。
「ロボットに仕事を奪われる」という話があったが、自分たちがその対象になるだなんて考えていなかっただろうからな。
「しかし、現実に、それは難しいという訳だよね。
レベルアップしてくれるのは良いけど、自我を得たロボットというか、光織たち並に魔力が扱えない限りは、そこまで強くもなれないんだから」
もっとも、半分以上は勘違いであり、今は隙間産業のような形で参入するのが精一杯なのだ。
数年後、数十年後までは知らないけど、普通に考えたらロボットがダンジョン最前線攻略の中核となる事は、まず無いと思う。
あくまでも下支え、縁の下の力持ち。不人気ダンジョンを管理し、素材供給でこちらに貢献するだけの、単純労働をする役割に留まるはずだ。
もしもロボットがダンジョン攻略で主力になる未来が来たとしたら……あまり考えたくはないけど、人間同士の戦争に転用されると思うよ。ダンジョンに送り込むより有効な使い方だって言ってね。
その場合、ロボットの生産力とダンジョンによる強化効率が国家の軍事力を決める指標になるのかな?
現実は戦闘機に戦艦、戦車、ロケットとかミサイルのような破壊兵器が軸になったとしても、歩兵戦力に活躍の場が無い戦争なんて、まずありえない。なんなら、ロボットが戦闘機のパイロットをやっても良いんだから。いや、その場合は無人戦闘機が出来上がるだけか。それはどこの亡霊だよ。
どうでもいいボケは横に置き、ダンジョンが押さえこんでいた「人間同士の戦争」が、現実の問題になろうとしている。
と、まぁ、そんな論説が欧米など、海外のニュースに流れるようになった。
「言いがかりも甚だしいというか、じゃあ戦争なんてくだらない事をやるなよ、やらせるなよって言いたいんだけど」
この話のオチは、その最初の一歩を踏み出したのが俺で、俺や光織たちこそが元凶だと言っている。
SDGsの12番目にある「つくる責任、つかう責任」。この問題は、世に送り出した開発者の責任だと世間は言う。
「こっちはそんなことを考えてないのにな。そもそも俺は開発者じゃない」
「……いえ、私たちが開発者なのは否定しませんが。ですが開発者とは言え、その様な責任を取る必然性や義務は、一切無いはずなのですけれど」
「その通りだとも! 我々に恥入る所は、何も無い! 無論、原神をダンジョンに投入すると決めた一文字君の行動もまた、適法の範囲内であり、咎められるような事ではないのだよ! それを言い出したら、包丁で人を殺した誰かがいたら、包丁を作っている、いや、刃物を作っている人間全員がその責任を負う事になるではないか! 戦争は、戦争をすると決めた者に責任があるのだよ!
原神のダンジョン投入が『平和的利用』である事は間違いなく、ゆえに否定される謂れは無いのだね!!」
これについては、及川准教授と四宮教授の言葉が正しい。
SDGsの「つくる責任、つかう責任」は、全く意味が違う。あれは「適切な量の生産」「生産物の平等な分配」について謳ったものだ。開発者の責任とは全く違う。
昔、「ウィニー」というファイル共有ソフトが著作権侵害を引き起こしていると問題になり、その開発者が責任を背負わされたが、あれは開発者が「著作権侵害を引き起こす事が予測できていた」から責任を負わされたのであり、一時的に有罪となったのだ。
最終的に、最高裁判所がウィニーの事を「適法・違法にも使用できる中立的なソフトウェア」と判断を下した事もあり、開発者よりも著作権侵害を引き起こした実行犯が裁かれるべきというのが現在の法解釈だ。
なので四宮教授の言うとおり、「犯罪を行う人間」「戦争にロボットを投入する人間」が悪いとするのが普通の考えだ。
それに日本を始め、いくつかの国は起きてもいない戦争の責任を何故問うのか疑問視しており、俺の周りはわりと平和である。
戦争が起きた後でも同じ事を言ってくれるかどうかは分からないが、そもそも戦争に軍人を送り出せる国はまだほとんど無いはずなので、あと10年は気にしなくても良いと思っている。
「それにしても、何故このような話が広まったのかね?」
「なんでも、海外のネット小説が発端らしいです」
最初は、SFファンが小説投稿サイトに「ロボットが一般化して、戦争に用いられるようになった世界」の小説を投稿したのがきっかけらしい。
その小説がバズって、一気に拡散。
出来が良かった事もあり、軍事評論家が「現実味のある話だ」と太鼓判を押し、ニュースで取り上げられもした。
そこまでなら特に誰も気にも留めなかったんだけど、一部の人間が「ロボットが戦争に用いられるようになる」「ロボットが人間を虐殺するようになる」と現実の出来事であるかのように騒ぎだし、社会現象になったのだ。
きっと、彼らはロボットに仕事を奪われた人なんじゃないかな? ロボットアレルギーの人間はどこにでもいると言うし。そしてそれは、日本よりも海外に多いという話もあったからな。
「海外でも不人気ダンジョン問題は時々取り上げられていましたから、すぐに落ち着くとは思いますが。あちらでは、逆風が厳しそうですね」
及川准教授は心配そうに言う。
今のところ、日本のみならず、海外でもロボットを使った不人気ダンジョン管理を始めている。
そしてそこでも、重量軽減のレベルアップ品が作られている。
だから最終的にはロボット冒険者を認める方向で落ち着くと思うんだけど。
それでも、世間の厳しい目があると、なかなか動きにくいんじゃないかと思うのである。
日本にいる俺たちには関係ないが、海外は面倒な状態になっているようだ。