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俺はこうしてダンジョンを手に入れる(後)

 支倉さんからダンジョン譲渡の話を受けた。

 俺は許可をもらい、ダンジョンの下見に来た。


「典型的な、ゴブリンダンジョン。これは酷い」


 山にあるダンジョンで、洞窟タイプという話だ。

 ぽっかりと空いた入り口から実際に洞窟へ足を踏み入れてみると、典型的な不人気ダンジョンというのがよく分かった。


 足場が悪く、暗くて狭い。

 ついでに隠れられる所が多いので、不意打ちへの警戒も必要。

 人が入りたがらないダンジョンの条件をいくつも満たしている。



「出てくるのがゴブリンばっかりってのもあるが、この環境も考えると、10万でも安いわな」


 ドロップアイテムが金にならないというのもあるが、同時に足場と視界の悪さで戦いにくい。

 訓練には良いかもしれないが、こんな特殊な環境に慣れてなんの得があるんだと言われるだろう。精々、似たような環境の稼げるダンジョンに挑む前哨戦といった所か。

 そんなダンジョン、聞いた事も耳に掠った事も無いが。



 暗がりを≪浮遊灯≫の魔法で照らしながら、俺は周囲を見回す。

 道幅が狭いので並んで歩くだけなら4人かそこらは行けるけど、獲物にもよるが、戦うとなれば2人が限界。基本は一人だな。


 そんなことを考えていると、奥の方に『ゴブリン』の姿が見えた。かなり大規模な集団だ。


 人間と違いゴブリンは体が小さいので、横に3体が並ぶこともできる。

 ゴブリンは緑色の肌をした、醜悪な顔を持つ小人である。手には錆びた金属製の武器を持っており、だいたい茶色い貫頭衣を着ている。

 稀に赤帽子をかぶった『レッドキャップ』と呼ばれるのもいるけど、それは横に置くとして。


「相変わらずの、雑魚。ありがとうございました」


 その戦闘能力は、人間の子供程度。1対1なら犬でも連れてくれば普通に勝てる相手である。

 まぁ、大人でも犬に勝てる奴ってそうそういないって聞くけど。


 俺にとってはただの雑魚キャラ、目を閉じて戦っても勝てると断言できる。

 とりあえず今は≪火弾≫の魔法で事務的に殺すけど。



「これ、ドロップアイテムの回収も大変だ。足場が悪いって最悪だよな」


 足場が悪いので、いくつかのドロップアイテムは足場の岩の隙間に入り込み、取りだせないような状況になっている。

 ドロップ(落した)アイテムだけに、床の状態が悪いのは致命的だ。ゴブリンだから諦めもつくけど、他のダンジョンだとドロップアイテムを回収できなければ無視できないほどに収入が減ってしまう。

 足場とは、本当に気を遣わないといけないのだ。



 それでも一部の、下草が異常に頑丈な草原タイプのダンジョンよりはよほどマシだけど。

 あっちは『ブレードウィード』って言われる罠みたいな草があるからな。防具が革なら防具を駄目にする覚悟で探さないといけない。


 あの時は、俺が金属製の籠手を用意して一人頑張ってドロップアイテムを回収したんだよなぁ。

 他の連中は周辺の警戒とか道具の手入れをやっていたからサボっていたわけじゃないけど、それでも雑用を押し付けられた感はあったんだよな。

 今となっては懐かしい話だ。





 洞窟の奥まで進んでみたけど、これといって特に特徴の無い、警戒する必要の無いダンジョンだった。


 出てくるモンスターは、聞いていた通りゴブリンだけ。溜っていたのか、総数は100体近かった。

 途中に小部屋があり、分岐もあったがフロアの区切りが無くて全体的に狭いから、ゴブリンの駆除をしながら全箇所回るだけなら3時間もあればいいだろう。



 出てくるモンスターが弱く、足場が悪いのをどうにかすれば、どうとでもなる。

 暗いのも、俺一人なら特に問題は無い。


 イレギュラーが無いのは逆に残念で、出来ればレッドキャップの1体2体でも出てくれれば面白かったんだけど。

 暇潰しというか、いい運動にはなるけど、その域を出ない、危険や緊張の欠片も無いダンジョンアタックだった。



「でも、まぁ、これはこれで悪くないよなぁ」


 ダンジョンに入って思った事。

 なんだかんだ言って、俺はダンジョンアタックが好きなんだよなって事だ。


 ダンジョンの中を歩くのは、これまでのどの暇潰しよりも、まだ楽しかった。

 緊張感は無かったけど、モンスターと戦う事で気が紛れるのは間違いない。


 5年間という長い冒険者生活は、俺の思考をダンジョンで染め上げてしまったようだ。



「ドロップアイテムは50個。一番大変だったのはこれを運ぶ事だよな」


 そうして、俺は手に入ったドロップアイテムの山を見て苦笑いする。

 これの中身は、『劣化ポーション』『錆びた金属の武器』『ゴブリンの魔石』の3択である。

 魔石は200円、劣化ポーションが500円で売れるが、錆びた金属製の武器は逆に引き取り手数料を取られかねないゼロ円である。


 はっきり言って、これで食っていく事は難しい。

 と言うか、無理だ。

 もしこれで食っていける腕があるのであれば、もうちょっと難易度が上がるけどこの10倍稼げる狩場に行った方が良い。

 だからこその、不人気ダンジョンである。





 こうして俺は、ダンジョンを一通り見た。

 世間一般の評価では問題だらけだが、俺の視点では問題の無い、優良ダンジョンに見えた。

 これならこのダンジョンを貰っても問題は無いだろう。


「よーし。ここなら何をしても人の迷惑にはならない。いやー、楽しみだな!」


 足場なんてものは、整備してしまえばいい。

 アスファルトとか用意しなくても、軽く砕いて均せばいいだけ。それだけでずいぶん変わるだろう。


 それよりも、ダンジョンで自由にできる方が重要だ。

 仲間への気兼ねや金銭的な問題で諦めていたあれやこれやを試すというのもいいだろうな。



「まずは鍛冶でもやってみるか」


 男の子なら、やってみたいと妄想する事も多い武器製造。

 実際にやってみる奴はごく少数だが、出来るんならやってみたい、興味のある奴は多いと思う。


 俺はニコニコしながら支倉さんに、山のダンジョンを気に入ったと伝えるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] パワードスーツというものが私にはよくわからないのですけど、ダンジョンを引き受けて色々と楽しんじゃおうって事ですよね。 幼馴染の主人公へのこれまでの扱いもですが、追放した時の言動って。最後の…
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