混乱する市場
正確な所は分からないが、タイタンのレベルアップにはタイタン本人の意思の様なものが影響を与えているのかもしれない。
これに関してはまだまだ検証が必要なんだけど、調べるだけ調べるついでに、小遣い稼ぎと言うには大きな商売ができそうだ。
俺と及川准教授はそんなことを考えていたんだけど。そんな、甘い考えはすぐになくなってしまった。
「まぁ、俺たちだけの独占事業って訳でもなかった訳だし。そりゃ、他も同じような事をやっていますよね」
「一番いい時期に売り抜けることができたと思えば、良かったのでしょうね」
俺たちが重量軽減のレベルアップした装甲を売り払った翌日。
ダンジョン関連商品のオークションには、別の大企業たちが出品した、同じような商品がズラリと並んでいた。
何が起きたのかというと、同じようにゴブリンダンジョンを確保し、ロボットのレベルアップに努めている企業が、同じような事をやって、同じような結果を得たという事なのだろう。
そして俺たちが重量軽減の装甲を売ったものだから、今のうちに売らないと不味いと考え、一斉に出品してしまったというわけだ。
「値崩れを起こしていますね。重量単価を見ると、俺たちの2割もついてませんよ」
「これだけ一度に出品されたのですから、仕方が無いのでしょう。元から、重量軽減効果は希少価値に値が付いていたところがありました。希少でなくなってしまえば、1割程度が妥当でしょうね」
重量軽減効果の装備品が出来るのは、万分の一未満という、とてつもなく希少な当たりクジのはずであった。ある意味、名工の逸品と同等の扱いを受けていた。
それが狙って作れると思われたのなら、完全に大量生産品へとなり下がる。
高品質であろうと、量産可能な物は廉価な値札しか付けさせてもらえない。
ただでさえ、レベルアップした金属素材が簡単に出回るようになったのだ。
重量軽減効果付きの装備品も、一年か二年先には、中堅どころが使用する、ありふれた品になっていそうだった。
「こうなると、属性装備の値段が高騰しそうですね」
「高騰、まではいかないと思いますよ。そこまで出回っていない物ではありませんし、他の値下げを受けて、一緒に値下がりをする可能性も有りますね」
ダンジョン関連の装備で一番希少なのは、俺が一財産を得るきっかけとなったドロップアイテム装備の最上級品だ。
その次は希少な魔法金属系の装備品。オリハルコンとか、ミスリルとか、精霊銀などがこれにあたる。
魔法金属の中には魔鉄とか、そこまで希少でもなんでもない物も存在するが、これは結構安くて、初心者マーク付きの冒険者が使えもしないのに購入したりするという姿をたまに見かける。
重量軽減効果の装備品は希少魔法金属系の物に次ぐ、レベルアップで作られる物の中では最高級品だったのだが、今回、その地位から転落した。
こうなると次に手に入れ難いものは、属性効果付きの装備品だろう。
俺が4大属性、火・水・土・風の武器は一通り持っているように、希少ではあるがそこまで出回っていないものではなく、中堅冒険者が頑張れば買えるレベルの希少さだ。
まぁ、安い方の物であれば一千万とか二千万円とか、それぐらいな訳だけど。絶対に手が出せないような値段でもない。
なお、消耗品に関しては別問題だ。
これは今回の件とは関係ないので、大して影響を及ぼさないだろう。
俺はお金が重量軽減の方に流れ込んだ場合、属性付きの装備が出回りにくくなるかと考えた。
なぜなら、買い手の購買力が一時的に大きく下落したからだ。
今は市場の取引が活発に行われているが、それは企業が冒険者に対して販売を行っているという形だ。通常の、冒険者同士のやり取りではない。よって、客である冒険者の財布が厳しくなるばかりで、今の購買力そのものは全体を見ると下降しているのである。
ある程度頭の回る人間なら今は売りを控え、しばらく冒険者の購買力が回復するのを待つだろうと予測された。
だから値上がりするだろうと俺は考えた。
及川准教授は、一時的な話ならともかく、長期的には属性武器の需要が下がるのではないかと予測する。
重量軽減効果の装備品が出回る事により属性武器と同じ価格帯の選択肢が増えて、冒険者は属性武器でなくとも構わないと考えるようになるからだ。
こればかりは狩場とかの都合もあるので一概には言えないが、確かに選択肢の幅が増えてしまえば選ばれる事が減り、競争相手が減った分だけオークションでの値上がりは期待できなくなる。
「どちらにせよ、新しい市場が生まれたのですから、それに合わせた流れが出来るという訳ですね。
ロボットがモンスターを狩る流れが生まれた以上、こうなるのは時間の問題でしたよ」
俺たちの、装甲売却はただの切っ掛けに過ぎない。
ロボットが冒険者としてモンスターと戦う時代。
その訪れの先駆けとして、装備品市場は今後も大いに荒れるのだった。