レベルアップ検証②
それにしても、相変わらずのゴブリンダンジョンでは、やる事に代わり映えが無い。
低難易度ダンジョンだけに危険もほとんど無いし、ロボット任せでゴブリンの相手をしないのだから緊張感を持つ事すらできない。
「言ってしまえば、ゴブリン退治は既に作業でしかありませんからね」
たまに及川准教授も付いて来るようになったが、そんな彼も慣れたものだ。
さすがに、最初の方はモンスターが殺される姿に怯えていたんだけどね。けど、安全が確保されていると実感できて、自分が直接関わらない――命令すらしていない――ので他人事のようになり、冷静さを保てるようになったのである。
距離の問題でレベルアップしないのも、他人事でいられる理由かもね。
こんな状態でレベルアップするとか言い出したら、別の理由で冷静さを保てなくなるんじゃないかな?
マンネリ状態でも、やる事をやっていれば結果に繋がる。
「ゴールデンウィーク中に結果が出ましたね」
ほぼ1週間で、通常タイプのアーマーと、バックパックと同重量、装甲を厚くした重装甲タイプのアーマーがレベルアップした。
そしてバックパック一体型のアーマーは、そのタイミングではレベルアップしていない。
付け加えると、通常のと重装甲タイプのアーマーに取り付けられたバックパックも、まだレベルアップしていない。
その後、少ししてから一体型のアーマーと、他のバックパックが同時にレベルアップした。
結果を見ると、バックパック分はレベルアップのカウントが遅れる。装甲の厚み、総量はそこまで影響しない。
一体型であれば、それに前面のアーマー部分が巻き込まれるため、僅かではあったが遅延が発生する。
これだけ見ると、一体モノはレベルアップの効率が落ちると言える。
通常の別々タイプであればアーマー部分が先にレベルアップするのだから、その分、次のレベルアップに経験値が回るはず。
「では、形状や仕様に変更は無しという事でよろしいでしょうか?」
「問題は、レベルアップ後のお話でしょうか? それぞれ、どんなレベルアップをするのかっていう部分も評価しないと駄目なんですよね」
レベルアップは乱数が混じるため、今回の調査だけで結論付けられるほど簡単な話ではない。
だが今回の結果も、サンプルの一つとして見れば、大事な結果なのだ。
けして、軽く見ていいものではない。
「魔力の通りは――これは、一体物の方が安定するな。やっぱり、分割されているとその分はロスになる? 強化効率はどちらも同レベルだけど、しっかりと見ると、本当に微妙に、一体モノの方がちょっと上。
内部のバッテリー側を見ると、うん。こっちはあんまり変化なしといった所か」
調べてみると、通常タイプと一体モノはほとんど同じようなレベルアップをしている。そこは、本当に差分が無い。
強いて言うなら、一体モノの方が強化しやすいと、ただそれだけである。
で、重装甲タイプのアーマーはと言うと。
「こっちは完全に別物かな? ちょっとだけど、重量軽減効果が付いてます」
「重量軽減。それはまた、レアなレベルアップ効果ですね」
ちょっとだけだが、重量軽減という、かなり実用的でバランスブレイカーなレベルアップをしていた。
これはこのまま成長させれば軽減効果が増していき、見た目と重さが全く違う、トンデモ金属へと変化する。
そしてレベルアップの方向性というのは一回目のレベルアップでだいたい決まるため、これはもう、重量軽減効果が強化されていくのは間違いない。
魔力を通している間だけとはいえ、金属が軽くなるというのは、かなり大きい。
ダンジョンのように魔力が回復する環境であれば、余剰魔力を消費する事で武具の重さという、移動時における最大の負荷を軽減できるのだ。
軽減効果が微妙であっても、将来性を考えると大した問題ではなく、売ればかなりのお金になるのは間違いない。
それぐらい希少で貴重で、金を出しても簡単に手に入らないような、珍しい効果なのであった。
「これ、売ったら、幾らぐらいになるのでしょうかね?」
「この装甲板が20㎏ぐらいだから、1億円か2億円か。それぐらいは余裕でいきますね」
「余裕で、ですか?」
「状況次第、欲しい人の財布の事情次第じゃないですか? トップクラスの連中は必要分を確保しているので手を出さないと思いますけど、トップに及ばない実力で、まだこっち系の装備を手に入れられていない連中であれば、欲しがると思いますけど。
ただ、そういう連中の財布って、常に潤っている訳じゃないんですよね。一時的に貧乏になる事も多いので。そこは、ちょっと読み切れないです」
及川准教授は、この重装甲を売ってしまいたいと考えているようだ。
個人的には、売るのはちょっと待っておきたいところだけどな。現在の資金には、まだまだ余裕があるし。
「これが再現できれば、面白いんですけどね?」
「ははは。話が横道にズレて行っていませんか?」
「いいえ。現状のデータを補完するためにも、何度かデータ取りをしないといけないじゃないですか。もちろん、今回と同じ条件で実験をするわけですけど」
「そこで同じようなレベルアップをするかどうか、見ないといけないわけですよね」
「はい。そうでないと、意味がありませんからね」
お互い、悪い顔で相談をする。
元々、同じ事を何度もやって、バラつきを確認するのは既定路線なわけで。
同じような結果が出て欲しいと考える事は、そこまで間違った話ではない。
そう。これはただの実験、サンプリングなのだ。何も疚しい事は無い。
俺と及川准教授の意見は一致し、この実験は何度か繰り返される事になる。
ただ、次に同じ結果となるのは4回目の事で、完全な再現性は無いと判断せざるを得なかった。
「ある程度狙って量産できることは黙っておきませんか?」
「そうですね。せっかくの儲け話ですから。これは一回限りの臨時収入としましょう」
ただ、それでも通常の発生率とは比べ物にならない高確率だ。
普通なら0.001%未満の、宝くじのようなものなのである。
狙ってやれるものではない。
「なんで?」という疑問は横に置き、俺たちは追加で大金を得るのだった。