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横道

 当たり前だが、レベルアップ用に新規製作をするというのも、馬鹿げた話だと思う。

 よって、作ってもらったのは、タイタンのアーマーパーツのバリエーション。

 背面のバッテリー入りバックパックをノーマルフレームと一体型にした、ただそれだけの代物である。


「交換したパーツはレベルアップ前だからね。これなら、4号機以降の完成を待たなくても実験できるよ」

「そして、レベルアップしたフレームは成型し直して交換部品の素材に使う訳ですね。それも一つの方法ですか」

「ええ。これだと、自我が発露(・・)されるまで時間がかかるようになるかもしれませんけど、金属パーツのレベルアップ、交換部品の作成を考えると、こういったやり方もアリでしょう」


 レベルアップしている、取り外したタイタンの装甲については、原神の分を含む、交換パーツの素材として扱う予定である。

 こうすれば、パーツ交換による脆弱性の解消に繋がると考えたわけだ。

 何もしないよりは、ずっと良いだろう。



「待ってください、一文字さん。今、自我の発露(・・)と言いませんでしたか?」

「言いましたが、何か?」

「自我の『発露』という事は、タイタンはすでに自我が発生していると、そういう意味になるのですが。その様な兆候は見られませんよ。いったいどうして、そのような事を言いだしたのですか?」


 俺が適当に行なった発言。

 及川准教授はすぐに言葉の違和感に食いつき、問い質してきた。

 タイタンの自我、その有無について。



 個人的には、あえて素人の俺が言うほどの話ではないと思う訳だが。


「いや、根本的に、みんな勘違いしている訳ですよ。自我があれば、自己主張をするって。

 原神、光織たちを見てくださいよ。初期の彼女らは「何も望まず」とは言えない程度に自己主張をしていたから、そうだと気が付いたわけですけど」


 レベルアップして自我を獲得した光織たちは、制御ソフトが完全に壊れていた。

 それでも普通に動くのだから、これはおかしいと四宮教授は気が付き、自我が認められたというのが過去の話。

 だからこそ、みんな勘違いしたと思うんだよな。


「でも、それって当時の『初代』原神にしてみれば、仕方が無い事なんですよね。

 だって最初の原神は、戦うために作られたわけじゃありませんから」


 あれはただの自己防衛反応だったと思うのだ。

 本来の仕様に無い行動をやらされたことへの反感と言うか、何と言うか。まぁ、当初はゴブリン退治を「やりたくない事」と認識していたのだと思う。

 俺のやる事を真似るのとか、そういうのは問題無かったけど、当時の光織たちはそこまで戦いたくなかったから、ああいう事をしたのだろう。

 初代原神は、及川准教授の中では、人助け要員、レスキュー隊員として作られたのだから。


「色々と折り合いをつけて、後輩もできて。そうやって今ではやる気になったみたいですけどね。当初はそうでもなかったと思うんですよ。だから、自己主張をした。

 けど、タイタンとか、今の子たちって、最初から戦うために作っていたでしょう? だから自分の中で現状と理想が一致して、そのままでも問題ないと考えて、大人しくしている。目立たない訳です。

 と、言うよりですね。兵隊なんて、自己判断で動いちゃダメな職業の最たるものでしょう。ロボットの兵隊を作っているんだから、そういう事もありますよ」


 まぁ、これは検証の一つもしていないような、勝手なお話である。

 想像によって補っている部分が多く、正しいとは言い切れない。


 けど、個人的には、これが正解だという漠然とした確信が自分の中にある。

 望まれて生まれてきた子供たちは、周囲の期待を一身に背負って産声を上げたのだと。

 原神たちの振る舞いは、誰かの、大勢の願いを形にした姿なのだと、俺はそう思っている。



「すみません、ちょっと理解が追い付かなくて……」

「今の原神たちについて言えば、及川准教授や他の学生さんたちの願いを一身に集めた結果じゃないかなと。そういう話ですね。

 他の子たちは、集まった願いの量は凄いかもしれませんけど、作られて間もありませんし? 質の面で劣る可能性も有りますからね。

 そこに付喪神的なサムシングがエッセンスとして加えられたという見方もできるんじゃないですか」

「これ以上は情報過多ですよ! ……すみませんが、考えをまとめる時間をください」


 おお。かなりレアな、及川准教授の雄叫びだ。

 静かにしているように言われたので、タイタンのボディをチェックし、異常が無いか確認をする。魔力・魔法的なチェックであれば、俺がやるのが一番だからね。



 10分は考え込んでいただろうか。

 それだけ間を空けて、及川准教授はようやく落ち着いた様子だった。


「今のは仮説、なんですよね?」

「仮説も仮説、仮設の仮説ですよ」


 そして俺に、今のはただの仮説でしかなく、確証のある話ではないだろうと笑顔で念を押してきた。

 こちらも笑って仮説だと肯定する。


 及川准教授は、これまで自分が見てきた物から、俺の仮説がきっと正しいのだと、そう考えたように見える。

 まぁ、いちいち確認なんてしないけどさ。



 それよりも、だ。


「タイタンの各部、オールグリーンですね。では、実験を始めましょうか」

「ええ。今の話はただの横道。さっさと本道に戻りましょう」


 今やるべきは、レベルアップの検証だ。

 さっさとダンジョンで実験をするとしよう。

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