レベルアップ検証①
単純に、倒されたモンスターと距離の離れたところにあるものは、生物・非生物を問わず、レベルアップの対象から外れる。
この考えを推し進めると、一つの疑問にぶち当たる。
体の大きな生き物がレベルアップするとして、その時に「モンスターとの距離が離れている」というのは、モンスターを倒すのに使った腕の先といった「最短距離」か、それとも背中のような「最長距離」なのだろうか?
これに関する研究はされていない。
気にしている人間がいないというよりも、実験・実測に手間がかかりすぎるからだ。
また、体格がレベルアップに影響するとした場合を考慮し、実験に参加するのは特定部位以外は同じ体格の人間である事が望ましい。
そしてモンスターを倒したときの最短距離と最長距離を割り出し、正確な記録を付けなければいけない。一般的なレベルアップ前の人間では、一回ごとの攻撃モーションの誤差が大きいため、測定が困難なのは容易に想像できる。
この実験で観測対象を人間にやらせようとするのは困難というレベルではなく、不可能と言っていい。
人間の測定対象を想定した場合は、サンプルの確保が難しいだけでなく、データが安定しない。
最悪、「個人差」という名の理不尽により、サンプルそのものが無効と言われかねないのだ。
その点、ロボットによる実験であれば問題は少ない。
その他の問題、モンスター側の個体差や戦闘時のダンジョン環境による誤差こそ無くせないものの、測定対象側の問題の大半がクリアできる。
人的リスクを最小限にできる点も考えると、普通に考えると最善の選択肢だ。
これについては、ドローン兵器でも実験できる。原神やタイタンのような人型ロボットにこだわる理由は無い。
機銃で戦うタイプのドローンは、戦闘距離や耐久力の問題で、レベルアップ前に駄目になるみたいだが、部品交換等をこまめにすれば耐えられるし、いくつか壊されても1つ2つ、生き残りがあればいいわけだ。
でも、そこまでの実験がされたという話は聞いていない。
理由はいくつか考えられるけど、「調べても仕方が無い事だから」というのが一番の理由だと思う。
こういった実験にかけるコストがもったいない。お金や時間は有限なので、他の事にリソースを回した方が良いと思われたんだろう。
それでも調べるとしたら、俺たちのような、人型ロボットをダンジョン攻略の主力にしようという連中ぐらいのはず。
それも、設計段階で経験値効率を求めるような場合に限る。
「タイタンのセカンドモデルを設計する参考にしても良いのですけれど。下手に体型を弄るとですね、体のバランスが悪くなりますし、腕などの可動範囲にも悪影響が考えられます。
私としましては、経験値効率よりも、戦闘効率、基本性能の高さを優先したほうが良いと考えているのですが」
「あくまで、参考にするだけですよ。同じ条件のときに、何を選択するか。その基準が一つでも多い方が有利というだけです」
機械設計担当の及川准教授も、すぐにはこの実験には意義を見いだせないでいる。
まぁ、こんな事をするのは、知的好奇心を刺激されたというだけだからな。
「関係無いのであれば、バックパックを固定化するとか、選択肢の幅が出るとは思いませんか?」
「そうでした。関係が無いのであれば、今の背面バッテリーを一体化した一ユニットとして設計する方が良いですよね。
逆に関係あるなら、今のまま、分離可能な別ユニットとするだけでした」
こういった話は、細かい、重箱の隅をつつく様な話だが、知っておくに越したことはない。
なんなら、背面のバックパックを前面に入れ替えるという選択肢もあるんじゃないか?
「いえ、それは駄目です。
先程も言いましたが、体のバランスは、今が人型として最適化された状態なんです。これを弄るのは、どうあってもパフォーマンスの低下を招きますから。賛成できません」
前面、この場合はボディにバッテリーを取り付けると思われがちだが、足などでもいいと思うし、そこならバランスもあまり崩れないと思う。
ほら、足が太くても、重心が低くなれば安定するんじゃないのかな?
「そう、単純な話でもありませんよ。歩くとき、足を振る事で発生する遠心力が大きくなるので、制動に必要なエネルギーが大きくなります。
その場合、背中に載せるよりも歩く負担がかかるんですよ」
いいと思ったんだがな。残念だ。
「その方が安定するのなら、最初からそのように設計していますよ」
「そりゃそうか」
素人考えは、やっぱり駄目だな。
餅は餅屋に任せるとしよう。
俺は俺のできる事で貢献だな。