強引な話
マジカル畜産に手を出さないのは手間の問題。
俺は鶏を飼っているけど、卵用にほんの数羽を管理するだけでも大変なのは実感できた。
家畜の世話はシャレにならないから、安易に手出しはしない。
餌と水の世話を自動化しても、小屋の掃除は人力だ。うん。マジで大変なんだよ。臭いから。
これで家畜がレベルアップしたら、どこまで大変になるか想像もつかない。
光織たちが手を貸してくれればいいんだけど。なんでか分からないが、光織たちは誰も手を貸してくれないんだよな。
タイタンがレベルアップして自我を得て、それで家畜の世話に回ってくれるなら、やってみてもいいけど。
たぶん無理だろうし、俺も無茶な望みという自覚はあるから、そこはもう期待しない。
家畜はこれ以上増やさない予定である。
魔法植物に関しては、「もしかしたらポーションを自作できるかも?」と言われている。
実際、ポーションはゴブリンのドロップアイテムの一つであり、ダンジョンから見れば「安いアイテムの一つ」という扱いだ。
まぁ、ゴブリンのポーションは買い手がつかない程度に需要の無い粗悪品なので、「そんなポーションが作れるようになったからどうした」という話でもあるんだけど。
ゴブリンのポーション、少量でも回復するなら良いんだけど、運が悪いと回復しないどころかダメージをくらう事もあるからなぁ。いざって時に頼れないギャンブルなんだよ。
しかもポーションの過剰投与は確定ダメージだから、さらに使えない。
病院とかだと、ちゃんと確定で回復する、もう一個上のランクのポーションしか扱わないんだよね。
で、その一個上のランクのポーションを手に入れるのは、そこまで難しくもない。一ヶ月か二ヶ月、真面目にダンジョン探索すれば、それぐらいの実力は身に付く。もし駄目だった場合は、才能が無いから諦めた方がいい。
普通ならそんな低レベル品が作れたところで意味は無いんだけど、その上のランクのポーションを作るためには、そうやって下積みも必要なわけで。
低ランクの品から順に、より良いポーションが作れるようにと目指すのなら、意味はある。
もっとも、魔法植物が手に入ったらポーションが作れるようになるかもしれないというのは、俺の勝手な想像でしかない。
ダメかもしれないけど、上手くいけばいいなと、そう思っている。
なんにせよ、やってみない事には分からないのだ。
「一文字君、こんなものを用意してみたよ!」
タイタンを戦わせるようになって、数日が経った。
特に何か言うほどのイベントは無く、変わり映えのしない経験値稼ぎをするだけの日々が続いていたのだが、四宮教授が何か持ち込んだ。
かごに入れられたそれは……。
「野球のボール?」
ごくごく一般的なスポーツ用品。
硬式野球のボールであった。
「いや、タイタンは1体しか戦えないだろう? 槍を持って後ろから突かせる事も考えたのだけど、それよりも遠距離攻撃の方が良いと思ってね!
そこで、野球のボールなのだよ! 殺傷能力は低いけれど、形が同じなので安定した射撃性能が見込める! 拾った石とかだと、形が歪であらぬ方向に飛んで誤射になるかもしれないからね! 殺傷力よりも命中率なのだよ! 野球のボールだって当たったら痛いのさ!」
言っている事は、分かる。
しかし、それなら弓とかボウガンでもいいんじゃないかと思う。
一応、俺は冒険者資格を持っているので、弓やボウガンの取り扱いができる。
俺の所有物であるタイタンに弓などで射撃をさせるのも、法律的にはOKという扱いだ。何の問題も無い。
なのになぜ、野球のボール?
「うん。投げるとは言ったけどね。ピッチングマシーンをタイタンのオプションとして組み込んでみた!」
「うぉい!!」
思わずツッコミで大声を出してしまった。近くにいた原神たちがビックリして後ずさっている。
だが、ツッコまれた四宮教授はどこ吹く風だ。動じていない。
「まぁ、これもいずれはレベルアップ対象なのだよ。野球の球ではなく、金属球など、もっと殺傷力のある物を飛ばすかもしれない。そういった期待をして、今から使っていこうという話なのさ」
あー。
将来のレベルアップ込みなのか。
けどなぁ。どうなんだろう?
「装備品とか、確かにレベルアップの対象ですけどね。使ってないと、あんまり恩恵が無いんですよね。
かと言って、射撃武器を使いすぎると、距離の問題でレベルアップが遅れるし。
近くに持っていって使うというのもなんか違うんですよね」
「そこを難しく考える事は無いのだよ。失敗したら、その時はその時。色々と試してみようという、ただそれだけの話なのだよ。
考えても見たまえ。今のタイタンは、体の中に植物を入れて戦っているとはいえ、結局は原神の時と同じような戦い方をしているではないか。
それでは、同じような経験しか得られず、前に進むにしてもゆっくり過ぎやしないかね?
ここは思い切って、変な事でもいいから、新しい事に挑戦しよう!!」
四宮教授は、どんどん新しい事に手を広げていこうとしているようだ。
それでいいのか?
手を広げすぎると、ゴチャゴチャして回り道になりそうな気もするけど。
どこか強引に話を進めようとする四宮教授。
及川准教授をやり込めたように、今度は俺にも意見を押し付けてきた。
焦ってる?
その態度に、少しだけ引っかかるものを感じた。
「でも、今は却下で。ゆっくりでも、あんまり手を広げすぎて訳が分からなくなるよりは良いので」
どこか不自然な様子の四宮教授。
だから俺は、自分の直感に従い、その意見を断固として撥ね退けるのだった。