魔法植物①
「圧倒的だな、タイタンは。まるでゴブリンがゴミの様だ」
タイタンの初戦闘。
それはまさしく、蹂躙というにふさわしい光景だった。
タイタンは、剣の届く範囲にゴブリンが入ったら剣を振る。たったそれだけの事しかしていない。
しかし、剣が一振りされるごとにゴブリンが切り伏せられ、首を刎ねられ、時には胴体が真っ二つになるなど、一瞬で殺されていく。
原神が槍で突き殺す姿と違い、巨漢のタイタンが剣で切り殺すのは視覚的に凶悪で、ゴブリンを力でねじ伏せているという感じがする。
特に、ゴブリンが2匹以上いても剣が振り抜かれ、一太刀で勝負を決めるところは圧巻であった。俺もできないわけではないが、見た目の印象はこちらが上である。
「相手が弱いとはいえ、凄まじいですね」
「うむ。ゴブリン以外でも、この攻撃力なら十分に通用しそうではあるね。攻撃速度も十分なのだよ」
タイタンの攻撃速度は足りていて、殲滅力は十分と言える。
及川准教授や四宮教授も、タイタンの戦いぶりを見ると圧倒されたようだ。製作サイドながらも、ここまで戦えるのかと、若干恐怖すら抱いていたように見える。
いや。四宮教授はタイタンの販売を考えているのか、何か危ないことを考えているようだった。
タイタン、巨体でパワフルなのは確かだけど、魔法による砲撃が有り得る場所では先制攻撃で沈められるかもしれないからね?
魔法対策に盾の一つでも用意するか、回避盾役の別のロボットでも同行させないと、足手まといになるからね?
もう少し、実戦を想定しないと駄目だよ?
タイタンが上手くいっているのは、遠距離攻撃手段を持たない敵が相手の時だけなのだ。
敵の数が多くても、相手がゴブリンであれば、タイタンは難なく対処できる。
敵の背が低く、若干攻撃が当てにくいという状況だったが、それでもタイタンのパワーはゴブリンを一撃で殺すだけの威力を確保できるので、1体でも十分戦えることが証明された。
その証拠に、タイタンは一度も攻撃をくらわず、中に積み込まれた植物の苗が無事だったのである。
苗は鉢に植えられていたので、敵の攻撃をくらったり、無理な攻撃を仕掛けていれば、タイタン内部が大きく揺れて、鉢から土が零れていただろう。
歩く時の振動は無くならないし、剣を振る時に腰を入れれば胴体を動かす事になるので、揺れをゼロにするのは不可能だ。
でも、鉢から土があまり零れていなかったのなら、タイタン本体があまり揺れていなかったという訳だ。
「けど、“魔法植物”とか言ったところで、それが何なのか、どんなものなのかは全く理解できないわけですが」
「分からないから、作って調べるのだよ。幸い、まだ魔法植物を作ってはいけないという法律も無いからね。今はとりあえずやってみて、調査するしかないのだよね」
「森林のようなダンジョンから、植物を持ち帰られればいいのですけどね」
「ダンジョン構造物は持ち出した途端に消えてしまうのだから、こればかりはなんともならないのだよ。楽はさせてもらえないね」
たまに忘れてしまう事だが、ダンジョン内部の物は、基本的に持ち出せない。
石ころ一つでも持ち出しは不可能で、唯一持ち出せるのはドロップアイテムのみ。先日の洞窟拡張でも、土嚢袋に入れた砂礫は、ダンジョンの外に持ち出すと袋を残して消えてしまった。そうでなければ、今ごろダンジョンの前には土嚢袋が山と積まれていただろう。
この仕様はありがたくもあり、もう少し融通を利かせ勘弁してほしい話でもある。
なにせ、安全だと思ってダンジョン内の水を飲んだら、外に出たとたんに水が失われて人が死んだという事例もあるのだ。
最初は何が起こったのか全く分からず、大騒動になったので、今ではダンジョンにおける基本的な注意事項として扱われている。
そう考えると、もう一つの例外は『空気』、『酸素』だろうか。
これだけは、ダンジョンも融通を利かせてくれている。
そうでなければ、ダンジョン内に人が入る事そのものが大きなトラップになっていただろうな。
この仕様さえ無ければ、ダンジョン内で採掘をしたり、採取をして金を稼ぐという手段もあっただろう。
もしかしたら、ダンジョン内の土地を開拓し、人が住んでいたかもしれない。
だが現実は食料や水を持ち込まねばならず、現地で入手できないため、実現は不可能と言っていい。少人数が滞在するベースキャンプを作るのが精一杯だ。
もしもダンジョン内に人が住むなら、生涯ダンジョンから出ないほどの覚悟がいるだろう。
現在、ダンジョン内で動物の繁殖実験が行われている。
これに関しては、実は日本が先進国の一つだったりする。
何故かというと、欧米ではモルモットを用いた実験というのがあまり行われておらず、そういった行為に否定的だからだ。
「しかしダンジョン内で畜産ができれば、畜産で発生する温室ガスを全部ダンジョンに押し付ける事が可能だからね。これをやらない手は無いのだよ」
そういった行為に忌避感を抱かない、日本などのアジア圏国家や南米、アフリカなどでは普通に研究が進められている。
ダンジョン育ちの動物のお肉はどんな味なのか?
そもそも、持ち出す事は出来るのだろうか?
一応、ダンジョン内での畜産は「可能」らしいが、その成果物は一般に流通していない。
何がネックになっているかは知らないが、とにかく難しいらしい。
さすがにこの分野まで手を伸ばす気は無いので、研究者の方々には、ぜひ頑張ってもらいたいものだ。