新しい挑戦
2日という短い休みを終えた俺たちは、再びダンジョンに足を踏み入れた。
「世間では、不人気ダンジョンは月に1回攻略してお茶を濁す程度の物だったはずですが。
ええ、確かに短い休みと言えばその通りなのでしょうけど、土日関係なく、低難易度とはいえ毎日ダンジョンに潜る生活というのは、おかしなものだという自覚はあるのでしょうか?」
「それを言っても仕方が無いね!
一文字君は『ダンジョン管理人』という、収入の無い職に就いた無職のようなもの。たとえダンジョンに潜ろうとも、ある意味、毎日が休日なのだよ!」
後ろで余計な茶々が入ったが、それは無視するとして。
今回はタイタンたち3体がメインでゴブリンと戦う予定である。
足元を削り、全体をコンクリートで覆ったダンジョンは、トンネルのようになっていた。
支保の木枠が外されずにそのままだし、ダンジョン内を照らす電灯は無い。
けど、床や壁、天井にコンクリートを使っただけで、見た目はやっぱりトンネルだ。
「埋め込み式の電灯でも付けたくなりますね」
「もっと頑丈なものができれば、それも良いのだけれどね。普通の電灯では壊されてしまうから、取り付けられないのは残念なのだよ」
なお、ダンジョン内に人工物を持ち込んだ場合、たまにモンスターに壊される。
もっとも、壊す方法はモンスターに依るので、頑丈なものであれば壊されたりしない。
洞窟タイプのダンジョンに設置型の灯りを持ち込むというのはよくある話だけど、灯りというのは洞窟に生きるモンスターにとっては不要な物なので、真っ先に破壊されるらしい。
今回の場合、モンスターはコンクリートの壁を壊そうとする可能性がちょっとだけあったりする。
ただ、壁はモンスターにとって不利になる要素ではないから、そこまで積極的に破壊しようとはしない。
特に足場が良くなる事は、こちらとモンスターの双方に恩恵があるので、そこまで問題視されなかった。
こっちがダンジョンの環境を整えようとするように、モンスターも自分に有利な環境を作ろうとするわけである。
「タイタンを2体並べると、やっぱり狭いですね。1体ずつ、順番に戦わせましょうか」
「ええ。そのための二刀流ですからね」
タイタンの武器だけど、原神とは違い、槍ではなく剣を2本持たせている。
元々、原神に槍を持たせたのは、やや距離を取った近接戦闘をやらせるためだった。
柄の長い槍を使えば、敵よりも先に攻撃できる。ゴブリンは弱いので、先制攻撃が命中すれば、だいたい何とかなる。
そうすれば安全に戦えるので、槍を使うのが最善だったわけだ。
しかし先制攻撃には、武器の間合いだけでなく、攻撃の速度も重要になる。
離れた所から攻撃できると言っても、攻撃速度が遅ければ、攻撃と攻撃の間に近寄られ、反撃を受けてしまう事が考えられる。
原神は2体並んで戦えたので攻撃速度が2倍になるが、タイタンは並んで戦えないので攻撃速度で原神に劣る。
それを補うのが、二刀流である。
体が大きいタイタンは、それに見合った腕力がある。タイタン視点でショートソードになる剣でも人間から見ればロングソードと、スケールが違う。
だから人間ならショートソードや脇差といった「攻撃範囲の狭い武器」も、タイタンのサイズに合わせるだけで「攻撃範囲の広い武器」になるし、2本持たせたところで問題が無い。
二刀流の弱点、取り回しを優先した軽い武器の、威力が劣るデメリットが無いのである。むしろ、普通サイズの武器を持たせるのはオーバーキルで無駄でしかない。
「これが砲戦になると前方投影面積の拡大で使い物にならなくなるのですけれど、武器で戦う分には、まだ弱点にはなりません。
体が大きい事は、そのまま力になるのですね」
ダンジョンによっては、タイタンの巨体は致命的な欠陥になり得るが、ここではそんな事も無い。
遠距離攻撃の無い戦いにおいて、大きい体とは、それだけで武器になる。
燃費という名の抗えない弱点はあるものの、それも増槽で補える。
増槽以外にも、オプション兵装を取り付けられるように及川准教授は設計をしていた。
こういった仕様はゲーム的なものではなく、ガチな軍事兵器でも使われている思想のため、いろんな実践データがあったようだ。
それと、四宮教授の発案で、かなり珍しい実験をしている。
「魔法植物は作れるのか、という話だね」
将来的にパワードスーツにする構想で設計されたタイタンなので、内部に人が一人入り込めるスペースがある。
そこにバッテリーを増設すればいいのでは? そう言われそうだけど、今回はそれよりも別の物が詰め込まれた。
植物の苗である。
植物をレベルアップさせて、マジカルな影響を受けた魔法植物を作ろうという試みを、四宮教授は提案していた。
これはすでに他所の研究機関が挑戦しているが、その結果はまだ聞こえてこない。
だから、自分たちでやってみようと言い出したのだ。
四宮教授は植物関連の専門家でもなんでもないが、そっち方面の知り合いもいるという。
そちらに協力を要請し、すでに話はついているという。
「楽しいねぇ」
「ええ。そうですね」
マスク越しで抑えられているが、四宮教授からはけっこう大きな声が出ている。
それだけテンションが高くなっているんだろう。
俺も、わりと楽しみだから否定はしないでおこう。