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俺はこうしてダンジョンを手に入れる(中)

「あら? なら、ダンジョン部分の土地を差し上げましょうか?」


 こちらの軽口、ちょっと口をついて出た言葉を見逃さなかった支倉さんは、「優しそうなお婆さん」の顔のまま、とんでもない事を言い出した。


「あー。頂けるなら、嬉しいのですが、ダンジョンが消えたとしても、返却はしませんよ? それでも大丈夫なんですか?」

「そうねぇ。では、一時的な管理を、となると、一文字さんも首を縦には振らないでしょう? それは、仕方の無い事だと思うの」


 ダンジョンの地主が土地を手放さない理由の一つに、「ダンジョンは消滅する事もある」というのがある。


 ダンジョンは、ずっと同じ場所にあるわけではないのだ。世界のダンジョン数は年々増加傾向にあるものの、時々、ダンジョンが前触れもなく消滅する事がある。

 この現象については未だ法則性が解明されていないし、傾向も分かっていないが、耐えていれば土地が元通りになる事もあるのだ。

 だからこそ、経費がかかろうと地主は安易に土地を手放さない。



「あの山は、マツタケが採れるようにと管理してきたのだけどね。ダンジョンができてから手を入れていないし、もうマツタケは採れないと思うの。

 またマツタケが採れるようにする手間を考えると、私ももう年だし、もう手放してしまっても良いんじゃないかって、最近はそんな事も考えていたわ」


 愁いを帯びた表情の支倉さん。

 この人は元気なお婆ちゃんだと思っていたけど、山登りとか、マツタケ狩りとかやっていたわけね。

 そりゃあ元気だろうよ。


 俺はマツタケよりもシイタケの方が好きだし、エリンギとかエノキだって好きだから、マツタケにそこまで価値を見出せない。

 マツタケが好む環境に山を手入れするとか言われたところで、何をするのかも、どんな苦労があるのかも知らない。

 だから手間がかかると言われれば「そうなんですか」としか言えないよ。





 そんな俺が言える事があるとすれば、ダンジョンを「貰う」か「貰わない」かの、解答だけだ。


 今の俺は、まだ23歳と若く、あと20年ぐらいは余裕でダンジョンを掃除できるだろう。

 不人気ダンジョンのモンスターなんて物の数ではないし、ドロップアイテムがゴミでも構わない。

 つまり管理の手間は、俺にとって無いようなものという事だ。



 ただ、年をとった後を考えると、どうかと思う。

 俺が若いうちにダンジョンが消えてくれれば良いんだけど、ズルズルとダンジョンがそのまま残ってしまうと、持て余してしまうだろう。


 ダンジョンが初めて現れ確認されたのが10年ぐらい前。

 日本国内だけで800個のダンジョンが確認され、うち100個近くはすでに消えている。


 10年経っても消えていないダンジョンも多々ある。

 消えるまでの最短は2年で、そこは人の出入りが多い人気のあるダンジョンだった。

 かと言って人の出入りが多ければ消えやすくなるという話ではなく、不人気ダンジョンもそこそこの数が消えているので、不人気ダンジョンが消えないという話ではない。


 絶対に消えるという保証も無いが、絶対に消えないという話でもないわけで。

 そこは、モノの見方、考え方で色々と解釈できるだろう。



 もしダンジョンを引き受けたとしても分の悪い賭けではないと思う。


 メリットは、プライベートダンジョンを手に入れられるという事。

 デメリットは、年をとった後にダンジョンが消えてくれるかどうかという話。


 細かい事を言いだすとキリが無い。

 大雑把に考えて、大きなメリットとデメリットはそれぐらいだ。


 メリットは大きく、デメリットはギャンブルになるが、勝つための目はあると思う。

 いざとなれば、マネーパワーで押し切る事も可能だ。

 考えれば考えるほど、ダンジョンを貰う方に意識が傾く。



 プライベートダンジョンを手に入れられたとすれば、試してみたい事ややってみたい事がいくつもある。

 冒険者時代には色々と苦労したので、ダンジョンには思う所があるのだ。


 ダンジョンというのは、不思議空間だ。

 空間の連続性の途切れた異界である。


 ダンジョンでは普通ではありえない事が多々ある。

 フロアごとに暑かったり寒かったり、森かと思えば砂漠になったりと、環境が違う事だってザラにある。

 地下を探索していたと思ったら、何故か空が広がっていた、なんて話だって聞いた。


 なんならダンジョンにおけるモンスターの発生そのものが生物学的にはあり得ない状況なのだ。

 発生しているモンスターが生物的な活動、例えば食事や睡眠などを必要としない事も含め、外の常識が通用しない世界となっている。

 モンスターが生殖活動で増えるとしたら、そのうち全滅するからなぁ。

 そりゃ、物理法則の一つや二つは無視してくれないと、冒険者だってオマンマの食い上げになっちまう。



 そんなダンジョンだからこそ、ちょっとぐらい無茶をしてみたいと思う訳だ。

 他の冒険者に遠慮などせず好奇心の赴くまま好き放題やれるとしたら、きっと楽しいと思う。


 そんな訳で、俺の(はら)は決まった。



「ダンジョンを受け取るかどうか、この場では即決できません。一度、現地に入ってから考えたいと思います」


 ダンジョンは欲しいけど、さすがに下見もせずに貰うほど俺は短絡的じゃないぞ。

 なので、一回見て、それから考えて、決めようと思う。

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