問題山積み(レベル格差)
「うーん。ドリルユニットはそれなりの重量なんですけどね。それでもまだ足りませんかー」
「仕方が無いのでは? 車両に積むのと、人間サイズが持ち歩くのとでは全然違いますし」
原神のドリルユニット。
及川准教授が用意したそれは、本来は掘削用の車両に積んである物だ。
個人携行品という事で小型化しているけど、出力はかなり大きい。出力が大きければ反動も大きいので。
「手で掘るよりも楽だとは思うけれどね? あれでは、振り回されているという表現が正しいのだよ」
マスクをして声を抑えている四宮教授が言うように、ドリル担当になった晴海はドリルに振り回されている格好だ。
床面を削ってはいるものの、ドリルの反動で体幹がぶれるのを必死に押さえているように見える。
原神たちの体重は70kgで、ドリルユニットが150kg。合計220kgでは掘削作業には重さが足りないと、そういう事だろう。
「ドリルの出力を調整して、200kgを安定圏内に設定したつもりだったんですけれど。足場など、もっと周辺環境の影響を数値化しないと駄目ですね」
「ああ。理想的な足場であれば、重量も足りたわけですか」
このダンジョンは、俺が多少は整備したものの、ちゃんと舗装したわけでもなく、完璧ではない。
未舗装道路のようなものだ。デコボコが多いし、砂礫と岩で踏みしめたとき、足の裏にかかる力の強さもバラバラだ。
よく「技術で体重の無さをカバーすればいい」とか、簡単にそういう事を言う人もいるが、これはそんな簡単な話ではない。
足場の悪さを技術でどうにかしたところで、限界がある。何の効果も無いというのは言い過ぎだけど、そこまで大きな効果は無い。同じ技術をちゃんとした足場で使えば、より大きな効果がある。
結局、ちゃんとした足場を作る方が効果的なのが現実である。
ただ今回はその足場を作るための作業となるので、今頃言ってもどうにもならないのだが。
晴海がドリルで砕いた砂礫であれば、運ぶのはそこまで難しくない。
光織、六花が土嚢用の袋に砂礫を詰めて、タイタンたちがそれを外へと運ぶ。
床面を削る作業と、袋詰めやその運搬では、前者の方が早い。
だが、その均衡は困ったところで取られている。
「ドリルのバッテリーがもうすぐ落ちますね。魔石の補充をしないと」
「ゴブリンの魔石じゃあ、原神3日分がドリル15分ってところですね」
ドリルの連続稼働時間が短いからだ。
ドリルユニットには原神やタイタンと同じ魔石式のバッテリーを積んでいるが、大きめのものを積んでいるにもかかわらず、すぐにバッテリー切れになるのだ。
そのため、バッテリーの補充をするのに手間がかかるので、他の作業と同じぐらい時間がかかる。
ちゃんと購入した、もっと良い魔石を使えばこの問題も解決する。
だが、どうせゴブリンの魔石はたいした値段で売れないし、使い道もあまりないから貯まる一方で、ここで消費したいという俺のわがままでこんな事になっている。
真面目な話をすると、こんな事をしなくても、俺が魔法でどうにかするのが一番早くて確実だ。
それでもドリルユニットを使うのは、及川准教授のデータ取りとか、俺がドリルユニットの実践演習を見たかったからとか、そんな非効率的な話である。
「効率が悪い事と、前に進まない事は違いますからね。非効率でも構わないじゃないですか」
もっとも、効率だけで生きていくのも面白くないし。
ちゃんと結果が出るんだから、多少の遠回りは人生の潤滑油だと言って笑っておけばいい。
結果が出ない事でも、悪いとは思わないけどね。
効率だけ求めて生きていくのは自我の無いロボットぐらいだろう。
「あ、ゴブリン」
なお、出てくるモンスターに関しては、俺が対応する。
近距離攻撃用の魔法を撃つだけの、簡単なお仕事です。
引きつけてから倒すのは、ドリルユニットにゴブリンの経験値を渡すため。
この一回でドリルユニットがレベルアップするわけでは無いが、それでもレベルアップに向けてチマチマやれる事をやっていく。
バッテリーの性能が上がってくれると嬉しいからね。せっかくの糧なんだから、美味しくいただこうじゃないか。
追加ユニットがあるのは良いんだけど、レベル差があると使いにくいんだよな。
原神たちはレベルアップしているので、レベルアップした体を使う事を前提に体を動かす。いや、動かしたい。
そうなると、レベルアップしていない部分が弱点になる。
メンテで行われるパーツの交換で、どうしても消耗が大きい部分が脆弱になってしまう。
強度バランスが崩れるんだよね。そして、最大出力が出しにくくなる。
できれば、交換用のパーツもレベルアップしたものを使いたいんだよね。
そのためにも、いろんな装備のレベルアップを少しでもやっておきたい。
無理をしない程度に、適度に頑張ろう。




