浪漫山積み(ドリル)
ダンジョンは狭い。
横幅は原神三人を並べて戦わせることができない程度、高さはだいたい3mと少し。
タイタンであれば二体並べず一体で戦うしかなく、歩くだけでも所々にある出っぱりに頭をぶつけてしまう。
横幅についてはまだいい。一体では手数が足りないこともあるだろうが、それはまだ致命的ではない。
しかし高さの問題はいかんともし難く、せめて歩ける程度の高さを確保したい。
つまり、ダンジョンの拡張が必要だった。
「と、言うわけで。ダンジョンの床面を少し掘り下げて高さを確保する。
本当ならもっと早くに動きたかったんだけどな。構内支保の資材確保に手間取ったのが痛い。
まぁ、下手な物を買う事はできなかったし。そもそも需要があまりないものだっただけに、在庫なんて残ってなかったんだろうな」
面倒な話であるが、洞窟型ダンジョンは崩落の危険性がある。
どこぞのラノベのダンジョンとかであれば、ダンジョン内を爆破しようと謎の力によって修復されるのだろうが、リアルのダンジョンは、壊れたら壊れたままだ。
そうなるとダンジョン内に「行けない場所」が発生し、それが理由でダンジョンのモンスター放出が始まる危険性がある。
意図的にそんな事をするのは犯罪で、俺が捕まってしまう。
何もしなければ、崩落の危険性はあまりない。
だからダンジョンの整備、拡張は最低限にするのが基本である。
やるとしても、俺のように足場を整えるぐらいに留める。それぐらいなら、まだ崩落の危険はあまりないはずなのだ。
一応、無理なダンジョンの拡張以外でダンジョンの崩落が起きたという話は出ていない。
「ダンジョンが消えたときの事を考えると、それでも踏み切る者が少ないという事情もあるのではないかな?」
「ダンジョン消滅をリスクと取るかどうかは人によると思いますよ。明日消えるかもしれませんが、何年も残っている可能性だってあるのだし、手間とコストをかけるのも悪くない話じゃないですか」
「一文字君が良いと言うのであれば、これ以上は言わないでおくのだよ」
なお、ダンジョンの整備が最低限な理由の一つは、すぐにダンジョンが消滅するかもしれないからだ。
最初期はダンジョン整備にお金をかけた事もあった。継続的なダンジョン攻略を考えているのであれば、誰でもそうする。ダンジョンがずっとそこにあるのなら、投資に見合うリターンが確実にあるのだから。
しかし、ダンジョンは消滅する事がある。
多額の投資をしてダンジョンを整備したというのに、いきなりそれが消えてしまった場合、どうなるか?
残るのはダンジョン整備にかけた工事費用の支払い請求だけで、手に入るはずだった利益はダンジョンと共に消える。
これもダンジョンへの投資があまりされない理由の一つだ。
リスクとコストははっきり分かるのに、リターンが全く読めないのが、ダンジョンの整備なのである。四宮教授が二の足を踏むのも仕方がない。
それでもやるのが俺なんだけどな。
「それでは、原神たちにドリルユニットを装備させますね。
ああ、支保の工事もお任せください。元々、原神にはこういった仕事をさせるつもりでしたから」
躊躇する四宮教授とは違い、及川准教授はとても楽しそうにダンジョン拡張の準備を進めている。
楽しそうな理由は、原神が本来の使い方をされているからだろう。
及川准教授にとって、原神は災害地の救助活動ロボットが本来の姿なのだ。モンスターと戦う事ではない。
それを考えると、洞窟で人が進むための道を確保する工事は、よほど“らしい”使い方となる。
オマケに、せっかく作ったのに出番の無かったドリルユニットが日の目を見るので、機嫌が良くなろうというもの。気合いの入り方が普段とは違う。
原神のドリルユニットは、かなりデカくて厳ついものだった。
「自衛隊の坑道掘削装置を参考にした物になります。これで掘るだけなら、かなりのスピードが期待できますよ。
まぁ、掘った後の砂礫の処理は大変ですけどね」
ドリルの先端は円錐に螺旋状の溝が彫られた、いかにもなドリルなんだけど。その螺旋には小さな出っ張りがいくつも取り付けられており、それが掘削能力を高めているのだと及川准教授は言う。
ただ、ドリルはあくまでも「掘る」だけであり、掘った後の砂礫は別に処理しないといけないらしい。
「本家は足下にベルトコンベアが付いていて、そこから砂礫や土砂を回収するんですけどね。原神にそこまでやらせるのは非効率と言いますか、あくまでも原神の多目的化だけを狙っていると言いますか、ですね」
当たり前の話であるが、ただ掘削をするというなら専門の装置を作ってやらせる方が効率が良い。
これは専用のロボットを買う事と比べた場合に、トータルコストなどを考えると手軽で安全に、かつ費用を抑えるためだけの効果しかない。
ぶっちゃけてしまえば、専用の掘削用装置をレンタルする方がよほど安く効率的だったりする。
「まぁ、せっかくだからお任せしますよ。よろしくお願いしますね」
「え、ええ。お任せください」
これに関しては、説明すればするほどメリットの無さが目に付く話である。
俺は細かい説明を求めず、及川准教授に仕事を依頼した。
及川准教授は踏み込まれなかった事にほっとした様子であったが、そこにツッコミを入れたりしないのが、武士の情けって奴なんだろうな。