人力式・人工衛星打ち上げ②
高度500㎞までのジャンプ。
当たり前だが、一回のジャンプで500㎞まで到達するわけではない。途中、空中に足場を作って何度もジャンプしなおす必要がある。
と言うよりも、「一回のジャンプで500㎞まで到達可能な速度を出してはいけない」というのが正しい。
この手の話でよく聞く「第二宇宙速度」。
地球脱出速度のおおよそ秒速11.2㎞のことだが、大型の人工衛星でそこまで速度を出してしまうと、加速のGで衛星が壊れてしまうのだ。
通常のロケットによる衛星打ち上げのように、ロケットエンジンで加速しながら宇宙を目指しているのも、ちゃんとした理由があってのこと。
人間はもちろん、精密機器も強すぎるGで壊れてしまうのだ。
同様の理由で、アニメに出てくる宇宙戦艦やスペースシャトル用の加速装置「マスドライバー」は採用されていない。
せいぜい、初期の加速度を何割か得るために使うカタパルトまでだろうな。
類似の方法として、小型の人工衛星であれば、遠心力で加速させ宇宙に向かってぶん投げる方式があるんだけど、アレは本当に200㎏未満の人工衛星にしか対応していない。
付け加えると、耐荷重性能を向上させるために通常のものより頑丈に作らないといけないので、衛星単品が同じ重量だと、性能的にはそれなりに劣るんだとか。
可能であれば優しく運んでほしいというのが、衛星メーカーの意見である。
そんなどうでもいい事情を考えつつ、俺たちは跳躍を繰り返す。
最高時速は200㎞を予定しているので、最初の加速にかかる時間と目標高度到達前の減速を考慮に入れ、片道3時間ほどかかることもあり、ルーチンワーク中は暇である。余計な思考も混じろうというものだ。
4人の跳躍タイミングを完璧に合わせないと変な方向に飛んで行ってしまうので、そこだけは注意が必要だが、俺たちの息は完璧に合わせられるため、実際はそこまで難しくない。
ついでに、俺たちのパワードスーツに取り付けられたカメラがリアルタイムでその映像を地上に届けているけど、あちらも変わり映えのない映像に、退屈をするんだろうね。
同じことをやった奴は他にいないため貴重な映像になるのは間違いないんだけど、ミーハーな興味しかない人であれば、俺の映像だけだと速攻で番組を切り捨てるだろうな。
無駄口をたたくとその音声が地上に流れてしまうため、今は口頭で喋ることもできない。
まともに会話するのは、地上から声をかけられた時だけとなる。
両手も人工衛星でふさがっているため、チャットもできないのが辛い。
視線認識のキーボードでも搭載しておけばよかったよ。
「GPSがダンジョンでも使えればいいのに」
「外部向けに、通信サービスを展開するのはどうでしょう?」
「配信者デビューに使えるかも~」
しかし三人娘にその縛りは無く、あっちは楽しそうに、わざわざ俺にも聞こえるように会話をしている。
ロボットなので、外に声を漏らさず会話するぐらい朝飯前なのだ。
その会話の内容が、「欲しい人工衛星とその活用方法」という話題なのは、どうかと思うんだ。
そして晴海、配信者デビューはやめなさい。お前がそれをやろうとすると、シャレにならないから。
ただでさえ世間では「AIがイラストを描き、それを商用に使用するのはどうかと思う」なんて騒がしいのに、それでもあえて突っ切った連中が炎上しつつも目立ってるんだから。配信までAI任せというぶっ飛んだ連中が。火中に手を突っ込むんじゃありません。
そんなどうでもいい会話に俺は内心ツッコミながら、予定高度までトラブルもなく、無事に到達するのであった。




