人力式・人工衛星打ち上げ①
周囲への根回し、実際に打ち上げる衛星の手配、ついでに報道陣の用意など。
それらをすべて終えるのに、2か月ほどかかった。
特に大変だったのは、衛星の手配である。
衛星そのものは割と頻繁に打ち上げられているんだけど、それらはすでに打ち上げ計画がしっかり手配されている。いきなり割り込んで「俺たちが超低コストで打ち上げますよ!」と営業をかけたところで、任せてもらえるはずもない。
どこの会社だって、一回コストダウンするためだけにこれまでの取引先に迷惑をかけた結果、次回以降に損をするような選択をしないからだ。
継続的な利益を考えるなら、目先の利益に目がくらみ、長年の付き合いを疎かにするなんてありえない。
特に航宙関係の業界は世界が狭いため、不義理を働けばすぐに悪い噂が出回ってしまう。この場合、俺の方も悪く言われる。
俺のような新参者は、どれだけ資本力があり注目されていても、信用が低いため、迂闊な行動はできない。
これから周囲と良好な関係を築きあげようという立場なのだから、ここで無理を通すのはただの馬鹿じゃないかな。
あと、思った以上に人工衛星が小型で、こちらの想定・要求する5トンクラスの低軌道衛星が無かったのも苦労した理由の一つとなる。
最近の人工衛星は小型化が進んでおり、100㎏未満が主流となる。下手すると、10㎏未満。打ち上げ予定のあった低軌道衛星に至っては重いものでも1.5トンと、5トンクラスがまったく無かった。日本だと5トンクラスは静止衛星ぐらいだった。
そもそもの計画が構想段階で破綻していて、思わず頭を抱えてしまったよ。
そんな中で1トンクラスの低軌道衛星を確保できたのは、相当運が良かったと思うよ。
誰かが裏で動いて手をまわした気もするが、そこには触れないでおこうと思う。
その苦労に比べれば、関係各所への根回しはまだ簡単だった。
役所関連は書類を提出するだけだし、それ以外の関係者だって説得が必要な相手は特におらず、むしろ地域活性化になるからと協力的。単純に、時間を使っただけで済んだ。
もっとも、こっちが誠意を見せ、ちゃんと挨拶や会食などに時間を使わなければ拗ねて反対派に回られるので、手は抜いていない。
簡単ではあるが、苦労はしてるよ。
そんな苦労も場を温めるドキュメンタリー放送に使われつつ、打ち上げ当日を迎えた。
「今回の衛星を提供したのは通信大手の――」
用意された人工衛星は、見た目だけ言うと2m四方のブロックである。
重さは3トンと、本体よりも外装の方が重い。
予定高度に到達後、アンテナや翼に相当する部分を展開し、地球の周りをグルグル回る。
高度500㎞では若干だが重力の影響を受けているため、デブリ回避も含め、多少は推進剤を必要とするけどね。10年かそこら頑張ってもらうことになる。
大きい分、長く使える設計だ。
この衛星を、4人がかりで空へと飛ばす。
「準備は万全か?」
「大丈夫!」
「オールグリーンです」
「おっけぃ~」
俺と三人娘は、四方から金属製のブロックを持ち上げる。
多大な重量に、パワードスーツの関節は問題ないが、踏みしめた地面が耐えられず沈んだ。
それでも、問題はない。
カウントダウンが始まる。
10、9……3、2、1―—ゼロ
俺たちは、高度500㎞を目指して跳躍を開始した。




