未来にかける
なんで「人力で人工衛星打ち上げ」などという企画をしたのか。
その理由は、現在稼働中の国際宇宙ステーション(ISS)の建設費用内訳を知ったからだ。
ダンジョンが発生する前、1976年からアメリカとロシアが「有人の人工衛星を作ろう」と話し合いを重ね、そこから日本を含む多くの国も参加し、当時のレートで約20兆円をかけて建造されている。
で、その20兆円の建造費用の内訳。
その約6割は、「物資運搬」だけとなっていた。
およそ60回もスペースシャトルや無人ロケットを打ち上げ、時に打ち上げに失敗し、何度も地上と宇宙を往復して運ばれたパーツで組み立てられた。
今はダンジョン騒動により未完成のままという状態だが、それでも最大6人の滞在が可能な状態で、各種研究がおこなわれている。
まぁ、最近は老朽化したパーツの交換もままならず、そろそろ廃棄される予定だとも聞いている。
そして次のISSを作る計画は、まだ無い。
だから俺たちが食い込むことは、可能だったりする。
今のISSを建造するときも一回の打ち上げで運ぶ荷物は10tぐらいで、今回打ち上げる衛星とほぼ同じ重さである。
もしも俺が人力で、コストを最小限に抑えて「物資運搬」を担えた場合、宇宙コロニー製造をするコストを抑えることができるなら、それは世界中の国にとって有意義な話だ。
次のISSを建造する計画を具体的にして、こちらに依頼してくるというのが仲間たちの予測である。
もともと、ぶっつけ本番で大物を作るのは難しいので、こういったワンクッションを置くのは大事だと思うよ。
しかし、低軌道に有人衛星基地を作るのに問題がないわけではない。
最終的に宇宙コロニーは静止軌道上、上空3万6千㎞に建造する予定なので、高度約500㎞の、低軌道の有人衛星基地を人力で打ち上げられたからなんだと言われるかもしれない。
費用だって半分以下に抑えられると言っても8兆円近くかかるというのだから、その費用を集めるのが簡単じゃない。
今のISSが破棄されるのに、次のISSを作りましょうと各国が手を出そうとしない理由も頷ける。
だがそれを言い出したら宇宙コロニーはもう一桁は金額が上がる可能性が高いし、「たかがこの程度」で尻込みしていては宇宙コロニーなんて建造できない。
困難、無理難題は最初から分かっていて、数十年かかってもおかしくない計画を立てたのだ。
国が動かないなら、俺たち民間だけで計画を遂行するプランまで考えている。
「やってみたい」という感情に蓋をするより、失敗してもいいから前に進む気持ちが強い。
周囲を動かせる力があるのに「難しいからやらない」は、逃げ癖のついた臆病者の言い訳だ。
困難を理由に諦めるほど、俺は俺の影響力を過小評価していない。
経営者視点でメリットとデメリットを秤にかけてやらないのはまだマシだが、それでも100年先の未来を意識するなら、そこにたどり着くまでのビジョンがあるのなら、メリットの大きさを理解して賭けるべき大仕事だと思っている。
金額の多寡は、この際、関係ない。
良い経営者は途中で手に入る各種技術を上手く使って最低限の利益を確保しつつ、遠大な計画を完遂するだろう。
俺自身が良い経営者かどうかは分からないが、仲間もいるのだから、きっと何とかなると信じるだけだな。




