宇宙の壁
宇宙産業で一番の課題は、物流である。
毎回毎回スペースシャトルで荷物を運んでいては、時間も手間も、コストだって膨大になる。
これを削減しないことには、宇宙開発などロマンだけのシロモノになり果てる。
その手法として有名どころでは、打ち上げ用の「マスドライバー」、最近流行りの巨大建築物「軌道エレベーター」がある。
前者は宇宙世紀のロボアニメがある。他作品までだしてまでの説明は不要だろう。
マスドライバー単品で宇宙船を第一宇宙速度まで完全に加速させるのは技術やコスト面を語る以前にハイリスクすぎて論外だが、それなりに加速させるだけでもロケット燃料を節約できるため、利点は大きい。なんなら、資源だけを無人で飛ばしてもいい。
後者は戦争に介入する前者と同系のロボアニメや、魔法が一般化した百年後の世界を舞台にした漫画、超能力を使う超人の漫画などがある。超時空世紀のアニメでは軌道エレベーターが物語の主軸にもなったな。
実際にエレベーターを上から下まで建築するのはかなり無理があるんだ。先端部分はかなり振動するだろうし、その振動を吸収するための構造はまだ実現不可能である。
けれど、実現できるなら安定して人と物資を運搬できるため、百年ぐらい先なら実用化してるんじゃないだろうか。
こうして考えると、現状でできそうな事はマスドライバーの一択になる。
マスドライバーでは精密機械を運べないと言われているが、外装などの構造物だけなら、なんの問題もない。
打ち上げに失敗したときのリスクだけキチンと計算すれば、大きな問題を起こすこともないだろう。
うん。
普通の手段なら、マスドライバーでいいかな。
現実的に考えるなら、これで良い。
ただ、俺が選ぶのは「俺だけが選べる選択肢」であり、普通の選択肢ではないんだ。
そもそも、マスドライバー施設をこれから建造するなら年単位で時間がかかる。
それでは意味がない。
今すぐにできる、インパクトが大きい成果とはならない。
そんなわけで、知り合いのテレビプロデューサーに声をかけて、人工衛星の打ち上げイベントを報道してもらうことになった。
人工衛星の打ち上げをするのは、俺。
「俺が人工衛星を宇宙まで運ぶんだよぉ!!」という前代未聞の企画である。
可能かどうかの実験は、事前に済ませた。
気象衛星などの静止軌道(地上から三万六千㎞)は不可能だけど、通信衛星などの低軌道(地上から二百~千㎞)はできるという結論が出ている。
個人的には月を目指したかったが、そもそも低軌道を越えるとヴァン・アレン帯を抜けるから宇宙線の問題が出る。
悔しいが、パワードスーツのバトルクロスにそれを防ぐ機能をまだ持たせていないので、今は諦めるしかない。
いずれは機能を強化して、月まで行ってみたいものだ。
俺の無念は横に置くが。
この話が周囲に伝わると、様々な場所に激震が走るのだった。




