協力者探し④
宇宙開発事業には協力できないと意固地になっている時任さんを説得するため、うちの工場に連れていくことにした。
もちろんゴネられたが、そこはもう笑顔で説得したよ。
同じ説得をするなら、仲間に引き込む段階で同じ説得をすればいいと思われるかもしれないが、相手を納得させるための説得で手を抜けば、同じ仕事をさせても効率や成果が目に見えて違うのは常識である。
たまに馬鹿な経営者が従業員の事をゲームのユニットか何かと勘違いし、従業員に仕事を与えれば成果を出すと考えているが、それは違う。本人に一定のやる気が無ければ、成果は出ない。
職場の雰囲気を悪くする要因は少ない方が良いし、脅して強制労働などもってのほかだ。こちらの言葉に納得し、自分の意志で働いてもらいたいね。
脅したことでこちらとの関係が「従属」に固定されるかも、だが、そこはちゃんと見極めるよ。
納得してないけど怖いから従います、という雰囲気であれば、その時は時任さんを諦める。俺は二度と関わらない。
この人はなんでも顔に出るから、分かりやすくていいよね。
半ば強制的に連れてきた時任さんに機密情報の保持契約を結ばせ、工場を案内する。
「こちらのエリアでは――」
時任さんに見せているのは、主に素材加工のラインだ。
こちらでは未加工金属へ一時的な魔法付与を行い、そこから特定の形に成型する流れになっている。
魔法付与という段階で怪訝な顔をしている時任さんだが、付与される魔法について説明していくと、徐々にその表情が変わっていく。
「魔法を付与するだけで、そこまで違うのか?」
「違うからやるんですよ。そうじゃなきゃ、赤字です。やる意味がありません」
通常、金属を特定の形にするには、鋳型に溶けた金属を流し込んで成形するか、切削や曲げ加工などを行う方法がある。それらを併用することも一般的だ。
その中でも鋳型による成型は大量生産するネジなどならともかく、装甲板などの少数生産品には向いていない。
装甲パーツは何十種類もあり、それらすべてに対応する鋳型を作るのは大変だし、スペースを消費する。運搬・保管時のコストも板に比べて増大するし、デメリットが大きい。
何より、鋳型だけで精密な装甲板を作り出すのは精度の面でリスクがある。結局は調整が必要になる。
鋳造は素人が考える以上にムラが出るのだ。
そして曲げ加工は金属を疲労させるので、強度が大切な装甲板には向いていない。
曲げる段階で金属に力が加わると、その分はダメージとなってしまう。
敵の攻撃を受け止める前からダメージを与えるのは、よろしくない。熱処理などでダメージを軽減する方法などもあるが、それでも完璧とはいかない。ついでに精度も出しにくい。
結局、曲げ加工は装甲板には向いていないとなる。
だったら切削が良いのかと言われると、これも、微妙。
切り出す前の金属塊が大きくなるので購入時どころか運搬や素材保管の段階で最もコストが重くなるのも悪いのだが、それ以上に加工に手間がかかりすぎるのが良くない。
できる製品の質は保証されるが、それ以外の面では、企業として選びにくかったりする。
トータルで考えると、切削が一番マシ。
発生した金属の切り屑を回収して再加工してもらえば、それなりに費用が抑えられるから。
費用についてはそういうものだと諦めるしかない。
魔法付与をしなければ、だが。




