協力者探し②
今回、俺が声をかけるのは「太陽光発電」の研究者だ。
廃れつつあった技術の有用性を信じて、石にかじりつく思いで独自に研究を続けてきた人が相手になる。
太陽光発電は200年以上前に見つかった光起電力をベースにした発電方式で、日本では50年ぐらい前から一般に普及されつつあった。
光というクリーンで再生可能なエネルギーはエコであり石油依存からの脱却も狙えるため、当時はかなり話題になったらしい。
それがダンジョンができて魔石発電が始まると、一気に誰も見向きしなくなった。
魔石発電の方がクリーンで大きなエネルギーを取り出せること、太陽光発電機は製造後の廃棄が問題になったのが原因だ。
今では、太陽光発電の研究はほぼされていない。
数少ない太陽光発電の研究者。
つまり、こまめに魔石を持ち込めない宇宙において、とても有用な技術の持ち主だ。
そうあり続けた理由は知らないけど、きっとプライドがあるのだろう。
周囲の理解を得られないまま、自分の世代でお金になるかどうか分からない研究を続けるだけの芯があるのは間違いない。
だから、交渉スキルよりも肩書きが立派な俺が直接口説くことで、誠意を見せなきゃいけない。
金だけ出せばなんでも買える、金で万事解決などと、人を軽く見てはまとまる交渉も頓挫する。
相手にそれだけの価値があるのだと、分かりやすく示すのだ。
三国志で有名な三顧の礼のような誠意の見せ方は、現代でも忘れちゃいけない。
人を動かすのは利益だけじゃなくて、もっと根元的な感情に訴えかけた方が上手く行くことも多いのだ。
初見で絶縁されないよう、誠意のあと出しなんて甘い判断はできなかった。
「ふーん。太陽光発電が一番だって事か」
「はい。宇宙にダンジョンが有るか無いかはまだ分かりませんが、今は無い前提で動かないことには話になりません。
甘い想定をして『やっぱりありませんでした』は殺されても文句を言えませんよ」
太陽光発電の研究者、時任さん。
ちょっと珍しくどこかで聞いたことがある名字だが、俺の知り合いの身内ではない。
年齢は五十手前で不健康そうな印象の、線が細い人である。身だしなみはちゃんとしているが、ほほの肉が痩せこけているので貧乏そうに見えてしまう。
顔は俺を疑うような感情を隠そうとしていないこともあり、目付きが悪く偏屈そうだと思った。
実際、これまで何度か騙そうとしてきたのが居たため、疑わなければ研究を守れなかったようだ。
太陽光発電がマイナーな技術ではあっても全く使えないわけではないし、ごく小規模でも需要はある。
仮に騙されたことが分かって時任さんが騒いだとしても、マイナーだから大事になりにくいので、狙われてしまったようだ。
「金は出すから、物を作ってくれってか。
……ふーん」
俺の知名度と肩書きのお陰で、話は聞いてもらえた。
条件にも目を通してもらっている。
あとは時間をかけ、ゆっくりと信用を得ていく事になるだろう。
そう思っていたが。
「ダメだな。話にならん。
作るものの条件、要求される仕様。それがこっちの技術じゃどうにもならん可能性が高い。つーか、実験が足りない。
そっちの話を信用しないって訳じゃないが、技術的に問題だらけで俺じゃ手が出せん」
信用以前に技術の話で、俺はすっぱりと断られるのだった。
こちらの話の世界では、太陽光発電はまだ2010年ぐらいのレベルです。




