ロングフット
酷い話をすると、宇宙に行くだけなら簡単だ。
俺一人が宇宙に行くぐらいは今でもできる。魔法で。
帰ってこれるかどうかは未知数だけど、それもたぶん大丈夫。
ただ、当たり前だけど、俺一人が宇宙まで行けたところでスペースコロニーなど作れないというだけである。
資材などは持ち込めないし、技術力も問題だらけだ。
仮にスペースシャトルが上手くいっても、どうにもならない。
スペースコロニーを作るとして、資材を全部地球から打ち上げるのは現実的じゃない。
現地で素材を調達して、現地で部品の加工・組立するのが絶対条件だと思う。
それだけでもスペースコロニーの部品を作るための、工場を作るための部品と作業員を送り込まなきゃいけないわけだよ。
さらに言えば、そんな工場を作るための工場を作るところからスタートする可能性も考えている。
宇宙空間に巨大建造物を作るっていうのは、そういう事だからだ。
「この規模の事業を進めるのに、俺がまとめ役っておかしくないですか? 俺、専門家でも何でもないんですよ」
「リーダーが専門家である必要はありませんよ。普通のリーダーは門外漢です。
一文字さんはロボット開発の音頭を取った実績を信頼されているから、選ばれたんですよ。ゲン担ぎと同じですね。
専門性が必要なのは、あくまで現場の人間です。その専門家を信じてもらえるのであれば問題ありませんよ」
「ぶっちゃけていまえば、金を集められる人間なら何の問題もないのだよ! 集めた金を下に分配できる公平性さえ担保できれば、それ以上の仕事はむしろ不要とも言うね!!」
そんな大事業ではあったが、なぜか俺が代表を務めることが内定している。
多数の企業が人と技術、資金を投じるのだから、普通は派閥争いや主導権の奪い合いがあると思っていたんだけどなぁ。
「主導権の奪い合いはしますね。
ただし、一文字さんが代表に就任した後に、ですけれど」
「ここで一文字君を代表に据えないのであれば、一文字君に秋波を送った意味が無いからね! ”代表は“一文字君で決定だよ。
ただし、一文字君を傀儡にして甘い汁を吸おうとする人間がごまんと湧いて出るだけなのさ!」
酷いことを言われているように聞こえるけど、残念ながら現実が酷いだけである。
つまり、二人の発言は誰でも予測可能なただの現実で、何も間違ってない。
実際、合同会社を作ったとしても、俺に代表らしい仕事ができると考えている人などいないのだ。
俺自身だってそう考えてる。
ここで「冒険者として成功した人だし、企業の代表だってできるだろ」などと考える人がいたら、仕事の違いについて延々と語ってやるよ。無茶言うなって。
そういう事を言い出すと、昔の昇進システムって頭おかしいよな。
平社員が平社員の仕事をして成果を出して、なんで昇進させるんだ?
班長にするのは、班長の仕事ができるかどうかを見るべきだろ。
平社員の仕事が凄くできるってだけで班長にするとか係長にするとか、本来は全く関係が無いよな?
凄い平社員なら凄い平社員として給料に反映させるとか、賞与に色を付けるとか。働きに報いるにしても、やり方ってものがあるだろうに。
……昔は、それが難しかったってことか。
当時はそれぐらいしかできなかったんかね。逆に、それが迷惑だって奴もいただろうに。




