アメリカの熱狂
アーモンド氏には、色々と熱く語ってみた。
「宇宙にダンジョンが無いと言いきれないでしょう。地球上にしかないと言うのがおかしいんですよ。
宇宙はフロンティア。地上の高難易度ダンジョンをクリアしたのだから、ソラに挑むのが冒険者じゃないですか?
冒険者を名乗るなら、冒険しないと」
その場しのぎの適当な嘘とはいえ、やってみたら面白そうだと思えることを語れば、真実に近づく。
「これで騙せたかな?」と思う反面、「騙すのは厳しいかな?」と自分の冷静な部分が指摘する。
少々、現実味が足りなかったかと。
民間企業が宇宙に挑むこと自体は、珍しいだけで皆無じゃない。
しかしスペースコロニーまで話が進むと、荒唐無稽としか言えなくなりはしないだろうか。
もうアーモンド氏に言ってしまったので、取り返しは付かないけど、多少の軌道修正は必要かな?
そんなことを考えていると。
「アメージング! アメージングだよ!」
アーモンド氏は手を叩き、俺を称賛する。
演技かどうかは判断できないが、これが本気なら別の意味で不味いかもしれないと、冷や汗が流れた。
「この話は」
「もちろんオフレコだよ! 大統領にだって秘密にするし、記事にするため編集部に持ち帰るなんて真似はしないさ!」
アーモンド氏は「分かっているとも」と約束してくれた。
だが、それから二日後。
「一文字君。アメリカの、様々な企業から業務提携の話が来ているのだが、何か知らないかね?」
「一文字さん。アメリカのSNS で『宇宙開発』『スペースコロニー』という言葉がトレンド入りしているのは、心当たりがありませんか?」
アーモンドォォ!!??
裏切ったなぁ!!
彼が帰りの飛行機に乗っている頃には、瞬く間にアメリカ全土に広められているのであった。
これは後で平謝りする本人から聞いた話だが。彼自身は、俺の名前を出して話を広げていなかった。
ただ、SF関係のフリー掲示板で、スペースコロニーを作るためにどうしたらいいのかと聞いてみたり、宇宙にダンジョンがあるかどうかの質問をしてしまっただけである。
あとは彼のアカウントは特定されており、彼がなぜそんな質問をしたのか推測した人たちが、勝手に動いたというのが真相である。
そして早い者勝ちの心理が働き、一瞬で大騒ぎになった。
俺に「ロボット冒険者という概念を持ち込んだ男」という実績が「ロボットを使った宇宙開発」に信憑性を持たせたのもある。
一度でも大きく成功した人間は、その後に大したことをしてなくても、大して実のある意見を言ってなくても、テレビタレントとして長く使われるようなものだ。
俺の場合は成功した冒険者として現役だから、より説得力はあったかもしれない。
アメリカ人の好きな「フロンティア」という言葉に過剰な反応が返ってきただけかもしれない。
実際、宇宙に進出することで得られるものは大きいし、先行者利益は無視できないものがある。
乗り遅れたくないのなら、負ける可能性が高かろうと賭けに出るのがアメリカって国の気風だし、今までもそうやって大きくなってきた企業は多い。
俺の適当発言が引き金で、事実無根の宇宙開発事業だけども。
「まだ必要な実験も何も済んでいないので」と言って逃げられる期間はどれくらいある?
いや、ここまで多数の企業と共同開発するなんて想定していなかったので、全部一律で断るのが安牌か?
まずはみんなを巻き込んだことに頭を下げて、協力を要請するしかないかな。




