アメリカの疑問②
「いやー、愛ですね、愛!」
アメリカの雑誌社から俺の取材に来たのは、背の高い、ヒョロっとした男だった。
名前は「ロベルト アーモンド」、日本語堪能ということで選ばれたメスチソの人である。
ちょっとだけハニートラップみたいなグラマラス美人を期待してたが、そんなうまい話はなかった。
それなりの確率で俺をアメリカに引っ張ろうと仕掛けてくると思ったんだよ。
どこも戦力はほしいだろうからさ。
しかし目の前のアーモンド氏からはそんな気配など微塵も感じない。
「ほぉあぁー。はー、とてもリアルとは思えないほど凄いですね!」
この人はテンション高めで声が大きいタイプで、知り合いで言えば四宮教授の同類である。
ただし、彼よりも高齢の四宮教授の方が身長が高く、筋肉がある。
いや筋肉はどうでもいいんだけど、どこかオタク気質というか、ナードの匂いがする。その辺も四宮教授に近いと思うところだ。
だからか、勧誘とかそういった外交的手腕は一切期待できそうにない、そんな雰囲気を醸し出していた。
一応、こちらを褒めるだけ褒めて気分良く話をして貰おうとするから、最低限の交渉スキルは叩き込まれてるみたいだけどね。
取材は恙無く終わった。
アーモンド氏は上手な聞き役で、不快に思うところなど無い。
歴史のある雑誌社なので、こっちに喧嘩を売るバカを海外まで輸出するほど間抜けではなかったのだ。
「お時間いただき、ありがとうございました」
事前に予定していた話すことを全て終えると、アーモンド氏は頭を下げ、お礼を口にした。
そして頭を上げると右手を差し出し、握手を求める。
俺はようやく終わったかと思い、安堵の笑みを浮かべつつ、握手に応じる。
握手を断る理由もないから、当然の対応である。
見送りなどはしないから、この場でサヨナラと考えていたけど、手を離したアーモンド氏は人差し指を立て、こんなことを言い出した。
「ああ、取材とは関係ない事ですが、あと一つだけ」
「うちのカミさんがね……」が口癖の警部のように、これまでと違って胡散臭い顔をした。
「ちょっとした好奇心からなんですけどね、これはオフレコにするという事で、少しだけ聞かせてほしいんですよ」
「古○任三郎」といい「刑事コロンボ」といい、どこか胡散臭い切れ者キャラだから、それに沿った演技をしているだけかもしれない。
どこからどこまで計算しているのか、それとも何も考えていない趣味人なだけか。
元ネタが元ネタだけに、判断が難しい。
こちらがこうやって考え込むところまで計算しているとしたら、アーモンド氏はかなり厄介な人となる。
だがとりあえず、ここは趣味人がロールプレイで遊んでいるだけと割り切ろう。テーブルトークRPGはアメリカが本場だし。
こちらの顔を見てテンションが上がってきた様子で、コロンボの「形式的な捜査なので……」というお決まりの文句を彷彿とさせる言い回してまで彼が聞きたがった事とは。
「今後の展望。次に何をするつもりなのか。
ああ勿論、聞きたいのは会社のコンプライアンスに反さない範囲の話ですよ。
会社方針などではなく、ミスター一文字個人の描く未来に興味がありまして」
俺のプライベートであった。




