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内モンゴル自治区③

 推定ラスダン周辺のモンスター掃討を終え、前線基地に戻ってきた俺たち。

 昨日は強行軍をした直後という事もあり、いつもと同じように戦っていても、それなりに疲れが残っている。


 明日か明後日の巨人出現に備え、今日はもう休もうと思っていたら、嫌なものを見た。

 魔石と物資の物々交換をしている区画で、現地冒険者が基地周辺に店舗を構える商人と言い争いをしていた。

 俺は中国語など分からないが、オンにしたままの翻訳ツールで会話内容が理解できる形で聞こえて、気分が悪くなってしまう。



 この辺りの状況が良くない理由の一つは、やっぱり現地の冒険者があまり使えないからだ。

 困ったことに、今の状況になっても、中国はここまで冒険者を派遣できないでいる。

 その最たる理由が。


「これっぽっちかよ! 魔石をあれだけ渡したのに!」

「あのレベルの魔石だけではこれでもサービスしている方だ! 文句があるなら他所に行け!」


 食料、物資の不足である。


 中国は、国内でも特に重要な牧畜地域のほとんどと、かなりの穀倉地帯をモンスターに奪われたため、深刻な食糧危機に陥っている。

 ほぼ中央の西安にあった工業地帯なども失い、工業力も大幅に低下している。そもそも、原料を入手していく事すら困難だ。自力でロボット開発をする土台が消えてしまった。


 これが海外勢力の影響を受け入れざるを得なかった理由の一つでもあった。



 満足な補給ができないのなら、人を維持するのは難しい。


 自衛隊はそこら辺のロジスティクスがしっかりしているので大丈夫だが、現在の生存権を守るのが大事な中国政府は遠方に人を派遣するのに消極的。

 中国政府が力を取り戻すのを嫌がった諸外国も、中国の捲土重来、失地回復を手助けしてこなかった。そこまで余裕が無かったっていうのも大きいけど。

 だから内モンゴル自治区はそこまで人の手が入っていない。


 日本政府が前線基地を作ったのは、どちらかといえばモンゴルへの協力であり、純粋に中国のためというわけではない。

 日本とモンゴルの仲は歴史は浅いが良好だし、こういった場面で協力するのは悪くない判断だ。

 危険な空路より陸路を使うために中国への協力という形をとっているが、外交的にはモンゴル重視なんだよね。

 あちらも人口密度が低く、大変みたいだからさ。



 前線基地の由来は横に置き、人手不足と遠方に物を運ぶ手間を考えて、中国は国として内モンゴル自治区を取り戻そうとはしていない。

 そんな事より、残った生存権の維持と安定化が優先課題。


 一部の目ざとい商人が自衛隊を利用して勝手に商売をしているだけでは、ロクに冒険者も集まらない。質も低くなる。

 それならいっそ、中国人冒険者を使わない方が楽だという。勝手に動く分には手を出さないだけでいい。


 自衛隊にだって人的余裕は一切ないが、下手にリスクを抱え込むより、人手不足の方がまだマシ。

 足手まといや無能な働き者は要らないのである。


 俺は大声で交渉をする連中を無視し、宿舎に入るのだった。





 中国が放棄した西部地域は、基本的に牧畜が盛んだった。

 牧畜は土地面積に対し得られるカロリーの効率があまり良くないけど、やっぱり肉は人気があるので、重要な産業である。

 それが失われたとなると、食肉産業は半壊どころか全壊判定をしていいレベル。


 十年以上が経っているので状況は改善しているが、まだまだ供給が追いつかない。

 供給を増やすには広い土地が必要で、そんな都合のいい土地など余っていないので、何かが犠牲になる。

 飼料の栽培もしなきゃいけないので、人間用の穀物が不足したりもしている。


 高い需要に対し、儲かるからと肉の増産を推し進めると、全体で見れば大きくコケることになるけど。

 上手くバランスをとって、自立してくれと願うばかりである。



 しかし農業は土地と天気次第という面が強く、バランス調整が難しい。


 農業では土地に合った品種しか栽培できないし、無理を通せばコストがかさむ。

 求められる品種全てを東側しかない狭くなった中国だけで賄うのは不可能だ。


 しかも土地にあった品種を育てようと、天気が悪ければ意味が無い。干ばつがたびたび起こるため、作物が大きな被害を受ける。

 以前の広大な土地があれば、遠方まで被害が出る事は無いので、他でフォローできた。

 狭くなった分、干ばつが起きる割合は減ったが、ひとたび干ばつなどが起きれば被害も大きくなる。


 そういう意味では異常気象を引き起こしそうな吹雪の巨人は天敵だと思うけど、中国政府に危機感はあるのかな?

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