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問題無し(史郎)

 原神たちに人権を与えても良いのではないか。

 今後、自我を得たロボットが現れた場合、人は、社会はどうあるべきか。

 真剣な議論が行われる中、やや俺たちにとっていい方向にマスメディアは報道をしていく。


 それがマスコミにとって利益の出る向きだから。

 そういった裏側が見えていても、助かる事に間違いはない。


「現在原神さんたちの主人である一文字さんは、以前オークションで50億円を手に入れた元冒険者で――」


 ついでとばかりに、俺の事まで話題に出すのは、まだいい。


「そういえば、一文字さんが50億円のオークションを開催するに至ったのは、仲間からパーティ追放の手切れ金としてドロップアイテムの」


 ただ、話題が史郎たちとの事に移った段階で、俺はテレビの電源を切った。

 軽率に、あまり触れられたくない話題を持ち出されて、イラっとしたからだ。

 「これだからマスゴミはデリカシーが無いんだ」と、俺は顔を歪める。



「一文字君は、昔の仲間の事を、もう恨んでいないと言っていたが?」

「あいつらの事は恨んでいませんけどね。

 俺があいつらを恨んでいるかどうかと、不快な昔話を、全く見ず知らずの人間がしたり顔で話すのにイラつくかどうかなんて、関係が無いでしょう。

 こっちはもう話題に出して欲しくないっていうのに」


 いっしょにテレビを見ていた四宮教授は、そんな俺に苦笑いをする。

 四宮教授はコーヒーを飲みながら、史郎たちについて簡単に調べ上げ、あいつらが今どうしているかを教えてくれた。


遠野君(史郎)たちは、今も専用の掲示板で晒されているね。

 一文字君がいなくなってからしばらくは、迷惑電話の対応で大変だったようだ。迷惑電話やネット上の誹謗中傷の書き込みに対して何度か訴訟を起こしているよ。

 その後、一文字君が抜けた穴を補充するためにメンバー募集をかけたようだけど、新メンバーは現れず、以前のまま、残ったメンバーだけで活動している。

 個人収入が以前よりもやや下がったようで、一文字君の働きが無くなったために連携の再構築でもしているのかな? 以前よりも下のランクのダンジョンに通っている姿が報告されているね。

 苦労している様だけど、落ちるところまで落ちた、といった風ではない様子だよ。一歩二歩後退、ではないかな?」


 あいつらは、苦労しつつも何とか頑張っていると、四宮教授は言う。

 四宮教授の探してきた『遠野史郎まとめサイト』で史郎の現状を確認してみるが、確かに無事なようで、少しホッとする。


 四宮教授にも言ったが、史郎の事はもう怒っていないのだ。

 あれでも古い知り合い(幼馴染)である。ちゃんとやれているようなら、その方が良い。


 もっとも、サンドバッグになるつもりは無いので、もう顔を合わせようとは考えていないけど。

 あいつの乱暴な態度は、俺を身内と思っているが故の、“甘え”みたいなものだからな。

 悪意とかそういった感情とは関係なく、“つい”とかその程度の感覚でやらかすんだ、史郎は。





 冒険者を辞めたあの一件から、すでに半年近く経っている。

 人の記憶は風化しつつあるが、どうでもいい事で史郎の悪評が再燃し、史郎やその周囲を傷付ける。


 俺が何か言うのは良いんだ。

 俺は、『被害者』だから。

 しかし関係ない連中が俺と史郎の問題に口を出し、史郎を悪し様に罵るのは、良くない。


 ネットで俺たちの話を知り、内心で史郎を悪く言うのは構わない。

 史郎のいない所で、仲間内で悪口を言うのも、まぁ問題無い。

 けど、だからと言ってネット上で悪口の書き込みをしたり、電話やメールで迷惑をかけるのは、絶対にアウトだ。訴えられてしまえと思う。ついでに、終わった話を蒸し返すマスゴミも訴えられろと、本気で思う。

 そんな事をする権利を、連中は持っていないんだから。



「成程、成程。冒険者を辞めるほど傷付いていたのかと思って口を出さなかったけれど、パーティ追放は本当に過去の話なんだね」

「そりゃそうですよ。大金が懐に転がり込んだんだから、危険な仕事を辞めるなんて普通の事でしょう? 宝くじを当てたサラリーマンが脱サラしたりするのと同じですよ。

 あの一件は、お宝を独占できてラッキーだとしか思ってないです」

「それはそれで、遠野君たちがかわいそうに思えてくるね」

「そこらへんはもう、ただの自業自得という事で。

 だってあいつら、誰一人として史郎が俺を追放するのに反対しなかったどころか、むしろ一緒になってい追い出そうとしましたからね。可哀そうとか、そう言ったのも、俺にしてみれば違いますね」


 史郎とは、二度と顔を合わせるつもりが無い。

 でも、不幸になれとも思っていない。


 俺は俺で幸せになる。

 だから、もういいのだ。

 俺は史郎を許しているんだよ。俺と関りが無い所で頑張って生きて行くのであれば。



「一緒に居ようとか、共に歩こうとか。そういった気持ちも無いですけどね。

 許して、嫌いが無関心になった。そんな感じです」

「……うん。それは、問題無いのだろうね」


 四宮教授は、微妙な表情。

 彼の中の正義感情が、どこかで俺の意見を飲み込みきれないんだろうな。

 ただ、致命的な話でもないだろうから、この件は特に問題無いだろう。

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