基本計画
「物資の確保に、他国は一切使いません。全て純国産で対応します。機械部品に関してはそちらに一任します。
警備に関しては、一部は米軍に協力を仰ぎます。さすがに、自衛隊のみで十分な護衛と警備を用意するのは不可能ですから。
今回の作戦において中国人は一切関わらせませんが、その分、妨害も熾烈なものになると予測されています」
今回の計画の大前提として、俺たちは日本人を中核に、日本政府の責任の元でダンジョン攻略を行う。
中国政府の反発は必至で、公民どちらからも妨害されると断言された。
攻略中に中国側からミサイルを撃たれないようにミサイル迎撃システムを持っていくというのだから、かなり笑えない環境でダンジョン入りしないといけなさそうだ。
中国は妨害が世界規模の被害を生みかねない悪手であると理解していないのかと小一時間ほど問い詰めたいが、「問い詰める必要はありません。理解していません」と笑えない言葉で返された。
そして「日本の政治家の約半分も、理解していません」と続けられると、もっと笑えない。
危機感を抱いているのは、本当にごく一部で、大半は「誰かが何とかしてくれる」「そのうちなんとかなるんじゃないか?」「大袈裟に捉えすぎでは?」と楽観論が強い。
困ったことに「中国消滅まで準備に時間を使い、中国消滅後に戦力を投入する方が良いのでは?」という意見に支持が集まっていたりする。
そうなるとダンジョンまでの距離が100kmは延びるんだけど。その負担は妨害対策よりマシじゃないかと言われると、答えに困るよ。
なお、現在の中国をモンスターたちにぶつけても、そこまで成果は期待できない。
中国は南北どちらの政府も日本以上の土地とダンジョンを抱えていて、同時にスタンピードで発生した地上のモンスターを倒さねばならず、手が足りていないからである。
中国の冒険者もロボットの導入が進み状況を改善しているが、これで反転攻勢に出られるほどの規模には達していない。
中国の戦力に期待しないのも、そういった事情があったりする。
二年ぐらい前までは徐々に国土をモンスターに押し込まれていたが、今は守りきれているのだから、中国の冒険者も弱くはない。
むしろ絶え間ない実戦と後がない現実により、日本の冒険者よりハングリーで強いはず。
そんな強い中国冒険者が敵対する可能性もあるとなると、俺たちも厳しい戦いを強いられかねない。
俺たちだって強いが、それでも敵を過小評価などしてはいけない。最悪を想定し、備える必要がある。
「九条さんの参戦を断られたのは、痛い」
「あの人を日本の守りに駆り出すだけでも、政府は苦労されたようですから。無理を言ってはいけません」
「他の冒険者から協力の約束を取り付けただけでも感謝するべきなのだよ! 普通の冒険者は中国になど、行きたがらないからね!」
自衛隊の協力はあるけど、できるだけ自前の戦力がほしい。
以前、ラスダンで知り合った冒険者に声をかけ、数人だけ引っ張ってこれたが、不安は残る。
なんでこんな苦労をしているかと言うと、自分の安請け合いが始まりなので、文句を言う相手に困ってしまう。
「誰か」がやらなきゃいけないとはいえ、その「誰か」に「自分」がなると、うんざりしてしまう。
それが嫌なら次世代を育てるべきで、それが嫌で次世代を育てたのが九条さんである。
同じ事をやろうとしても、ラスダンが無くなった以上、真似はできない。
「中国に行ったラスダン、攻略したら戻ってこないかな?」
世の中は甘くなかった。




