海外遠征の話⑤
「うわぁ。担当した役人さん、泣いてませんでした?」
「あはは。泣いていませんでしたよ。
……泣いてくれていれば、もう少し、搾り取れたのですけれど」
鴻上さんらの説得、ならびに海外遠征の契約を詰めておくよう、国の役人を使い倒して数日。
彼は仕事を果たしたようで、鴻上さんらが折れて、俺は中国に飛ぶことが決まった。
報酬などの契約内容、あちらでの活動を守る権利関連の契約条件はこちらに有利なものばかりで、よくこんな条件が通ったなと言いたくなるものだった。
そんなだから、一部条件についてはネット上に流出して、政府批判の材料にされている。
今の総理はこれまで頑張って結果を出した人だけど、このやらかしで次は無いだろう。
ただし俺を送り出すことによる不安の声や税金の無駄遣い、中国やアメリカどころか俺たちにすら言いなりになる弱腰外交は強く指摘されているものの、人権無視といった声はあまり聞こえていない。
さすがにハイレベルな敵を相手に舐めプをしろとは言われないのだ。
実際はケースバイケースだが、テロリストに厳しいのは世界のどこでも同じで、日本人的には中国人に厳しい意見が多めになるからね。仕方ないね。
「それにしても、これ、よく政府が認めましたね」
「そこだけは、絶対に譲らないと念を押したからね!」
「ええ。あの子達の安全を考えれば、『ロボットの人格を認め、人権を保証する』のは海外遠征の前提条件でもあります」
「でも、時間稼ぎはできませんでしたね」
で、その一部条件が流出した最大の理由は、日本の法律が変わったから。
これまで政府でのらりくらりと議論が避けられてきた『ロボットに人格を認め、人権を保証するかどうか』という話し合いに終止符を打ち、『人格を得たロボットは人権を持つ』と決めさせた。
それは中国政府が認めていなくても、日本の政府が認めていれば、色々と動きやすくなる。
特に懸念された、俺抜きで三人娘が反撃をしたとき、変なイチャモンをつけられなくなるのである。
だから鴻上さん、及川教授、四宮教授の三人は、頑としてここだけは絶対譲らないと主張した。
権利に付随した義務もあるけど、それは追々決めていくという事で、まずはロボットにも生存権をはじめとした最低限の権利が認められただけである。
これについてはもう賛否両論、喧々諤々の大騒動だ。
議論の期間が短かった事もあり、テレビに出るコメンテーターたちはやや批判の方が強いのは「拗ねて反対するとか子供かよ」と笑ってしまうが、ネットでは称賛が多めだな。
やっぱりロボットが社会に浸透している事もあって、親近感が湧いているようだ。
それに日本人は付喪神のような、物に命が宿るのを認める国民性があるので、より受け入れやすかったのだと思う。あとジャパニメーションによる布教の結果。
ちゃんと議論を重ねている海外でも、ロボットに人権を認める国は、今のところ皆無だからな。
あちらにしてみれば、ロボットはどこまで行っても「人の作った機械」なんだろう。
大事にして個々の名前を与えようと、それはそれ、これはこれ。
大事にする事と、ロボットに命を、人格を認めるのは別問題と割りきっている。
今は日本がどうなるかを見て、今後の指標にするのだろう。
完全に文化の違いとしか言えないよな。
人権を認めない海外を悪いとは言わないけど、俺は日本人だし、三人娘やタイタンたちは、ちゃんと尊重してあげたいね。
それにしても、なんでそこまで譲歩してまで、俺を中国に送り出す?
まったく訳が分からないな。




