海外遠征の話③
「それが……今回のお話は、アメリカからの要望でもあります」
当たり前の話として、旧中国領に行くのを拒む俺。
そこに、分かってはいるけど、なんとかならないかと泣き付くお役人。
「日本最強を送り出すことで現地中国政府、その後援をするアメリカの面子を保つ意味もあるんですよ。
もちろん費用に関しては国が全額負担、厄介な者達への対応も米軍と中国軍が責任を持つことになります」
「費用の方は、まぁいいです。けど、信用できないんですけどね、その人達が」
「……はいぃ」
交渉役の役人さんは、こちらが拒む理由のいくつかを潰す材料を持ち出すけど、こちらは塩対応である。
当たり前だ。信用がゼロどころか、悪い意味で信用マックスなんだから。
残念ながら、巨大な組織が一枚岩ってのはあり得ないんだよ。人間だから。
俺を守るはずの中国軍に後ろから撃たれたとしても驚かないぞ。
小規模なパーティだって意思統一が難しいんだよ。それが巨大な国レベルでガチガチに縛るなんて、できるはずもない。
そして中国の歴史がそれを証明しているんだ。皮肉にも、ね。
何かあれば容疑者を殺すことさえ許可されているとか言われようと、土壇場で手のひら返しが目に見えている地雷原に、誰が行くと思うんだろうな。
ただ、個人の気持ちだけでなんとかなる話でもない。
「そもそも何で、派兵とか言い出すんです?
中国の冒険者だって強いでしょうに」
「派兵ではありません。平和維持活動、その協力です。
それと、今回のお話は中国の安定以上に、日本の安全の為なのです」
目的だ。
わざわざ海外まで行こうとする理由が厄介なのだ。
魔石稼ぎと言うなら、日本のダンジョンを攻略するだけで構わないはず。
中国とアメリカに恩を売るとしても、それ以外の手段でやればいいのでは、と思ってしまう。
それこそ、うちのタイタンやバトルクロスの海外販売は嫌だが、他企業の中には輸出に前向きな所もあるはず。
あとは中国の強兵達がどうにかするものじゃないか。それが国の責任だろうが。
これは、そんな理論武装でなんとかなる問題でもない。
半分以上を失った今でもまだ広大な国土を持つ中国だけに、戦力が足りていないのは、分かる。
そして中国がコケれば東南アジアの国々、朝鮮半島、日本が危険になるのも理解の範囲内。
そうなるとシーレーン、海上輸送網に多大な影響が出てしまう。
ただでさえ旧中国領の上空が使えなくなっている現状では、致命的な物流破壊が起きてしまう。
アメリカも日本も、だから戦力を送っている。
それこそ、自国のダンジョン攻略がギリギリだった頃からだ。
焼け石に水でも、しないよりはマシなのだ。
それをマジキチ理論で妨害するような連中を助けたくないのは、確かに俺の本心だけど。
「誰かがやらねばならず、その“誰か”になる人が居なくなると、その、結局は我が国がモンスターの脅威に曝されてしまうのです。
どうか、何卒、お願いできないでしょうか?」
報酬は十分な額が払われる。
嫌な話だが、ダンジョンで得たアイテムを換金できなくても問題ないぐらいの収入が日本政府により保証されてる。
中国政府が信用できなくても、日本政府が支払いを渋る可能性は考えなくていい。
だから赤字にはならない。
「日本に来るモンスターを倒すより、中国でモンスターを倒す方が国防上の都合がいい。そういうことにしておきます」
「それでは?」
「仕方ありません。引き受けますよ、詳細を詰めてからね」
「ありがとうございます!!」
俺にだって、少しぐらいは愛国心がある。
あとは今後も都合よく利用されないよう、明文化された契約で相手を縛るために、一度ぐらいは協力しよう。
二度目は無い。
そこは譲らないと心に誓いながら。




