ラスダンの終わり④
ラスダンが消えて、一週間が経った。
余波は広がりつつあり、それがどこまで広がるかは、俺では想像が付かない。
冒険者的にはトップ層ぐらいしか影響が出ていないけど、希少素材の供給を止められた企業側から見ると阿鼻叫喚の地獄絵図である。
幻想金属をどうにかして輸入できないかと頑張っているところもあったけど……無理だろうなぁ。
供給が少なすぎて、輸出できる量を確保している国なんて無いから。
幻想金属が“希少”素材と呼ばれているのは伊達でじゃない。
当然のように俺の周りも騒がしく、付き合いのある企業からはチクチク言われる。
自衛隊が表の責任をとってくれたとはいえ、情報を完全に封鎖できるわけもないから、そこはしょうがない。
チクチク言われるだけで、取引停止とか本格的な責任問題にならなかったことだけが不幸中の幸いと言える。
これについては、トップ層の冒険者と会社的に付き合いが出来た事による恩恵なので、彼らにはサービスしといた方がいいかな。
うん。トップ層の冒険者に納めるタイタンが生産できない理由の説明として「いやー、○○さんのところが圧力かけて部品の供給が止まっちゃって」などと言われたら、企業のイメージが大きく損なわれるからね。
タダでさえ供給源なのに、トップ層の冒険者からギルドに「ここの企業には幻想金属を納品しないでくれ」ってなったら最悪だから。
コッソリやるにしても、まず無理だ。
だいたいの企業はどこの派閥かがハッキリしているし、他派閥からの干渉なら、それはそれで話題になるのは避けられない。
こっちにも伝手があるので、上に話をしてしまえば、上の企業の意向も見えてしまうから。
トップを抑えられてしまえば言い訳が出来なくなるのだ。
隠し事をするにしては、この業界は狭すぎる。
見た目でわかりにくい部分もあるけど、実際はごく少数の企業に寡占されているんだよなぁ。どこの企業がどこの陣営かの色分けもしやすいしさぁ。
だからこそ、嫌われたら一瞬で終わるんだよ……。
求められる企業規模に対して切り分けるパイが小さい業種は、これだから厄介なんだ。
企業関係のゴチャゴチャは横に置き、ダンジョンでストレス発散をする俺の所に九条さんが来た。
ラスダン攻略最前線を突っ走っていて、今回の騒動で最も影響を受けた九条さんが、である。
今回、九条さんはダンジョン外のちゃんとした服ではなく、少しゆるめの私服に近い格好で来た。
外で食事を一緒にしたこともあったけど、その時でも仕事用のスーツ姿だったんだけど。
仕事でそういうちゃんとした服を着ないのは、相手に対する侮辱になりかねないので、今回は完全に私用できたという事か。それとも怒っているという意思表示か。
表情はいつも通りなので、前者かな?
会社の応接室へ通し、アポでは聞かせてもらえなかった用件を聞くことにした。
椅子に座り、お茶で口を湿らせた九条さんは。
「ラスダンもなくなったからな。年寄りは引退することにした」
俺に、とんでもない事を言った。




