ラスダンの終わり①
光織がやられた。
これまで経験したことのないほどの怒りで、一瞬、我を失いそうになるが、それを堪える。
俺が脳みそお花畑であればここで光織のところに駆けつけるのだが、そんな事をしても、何の意味もない。
それよりも早く敵を倒し、安全を確保するべきだ。
必要なのは全員でダンジョンから帰ることだ。
自己満足にしかならない感情任せに動きで窮地に陥る事じゃないんだ。
だから。
「ぶっ殺す!!」
「光織の仇!」
「死んじゃえーー!!」
「……私の動力炉、まだ動いているよ?」
この怒りを巨人どもにブチ撒ける!!
六花の発言に光織が突っ込みを入れるが、それを誰も聞いていないのは良いとして。
俺たちは倒れた巨人どもに致命的な一撃を加える。
もともと、巨人どもは光織を倒すために無理をした直後である。
最期の一撃、それを使い切ったのだから防御も何もない。
三体の巨人たちは魔力の靄となって消え、トレジャーボックスをドロップしていなくなった。
「光織!」
「心臓が動いていない。王大〇――死亡確認」
「そりゃ、ロボットですからね~」
まだ離れたところでオケアノスたちが頑張っているとはいえ、この場の安全が確保されたのだからと、俺は光織のところに駆け寄った。
六花と晴海は通信がオンラインであり、光織の状況が分かっているから、冗談を飛ばし余裕を見せている。それよりオケアノスたちの方を気にしているようだ。
やられた光織だが、光織の本体はそこまで大きなダメージを負っていなかった。
ダメージは着こんでいるバトルクロスの方が深刻で、こちらは前面が大きく歪んでいるのに加え、両脚部ならびに右腕部の関節がイカれている。
光織を守るため、パワードスーツは犠牲になったのだ。
光織は再生能力持ちなので、バトルクロスも時間をかければ回復する。
とはいえ、2~3時間はまともに動けないだろう。
ここに光織を置いて三人でオケアノスたちの応援に向かうプランもアリかもしれないけど、敵の数が多いので抜けてくる奴がくるリスクが大きい。
ただし全員でここにいるのも、戦力を遊ばせるようで無駄に思える。
誰かを光織と一緒に残して、誰かを応援に向かわせようかと戦力配分を考えたところで、周囲に異変が起きた。
これまで轟々と降り続けていた雪が止み、積もっていた雪、凍っていた地面も元の状態に戻ったのだ。
ラストダンジョンは巨人というボスの撃破を経て、通常の姿を取り戻す。
それだけではない。
地面が淡く光り出して、ダンジョン内にいた全員が、いつの間にかダンジョンの外に放り出された。
それも、全員、傷や損傷の一切が治った状態。そしてダンジョンに持ち込んだ、消費したはずの物資も補充されているというオマケまでつけて。
目に映るのは、ダンジョンの入り口周辺に作られた通路である。つまり、ダンジョンの外だ。
俺は周囲を見回し、三人娘にティターン、タイタンたちに淡島一尉の姿を確認した。
そしてお互いの情報を共有するが、全員のコンディションがグリーンになっている。
「は……? 何事?」
中身を確認していないけど、ここまでの戦いで手に入れたドロップも無事。
先ほどのドロップも回収してあり、巨人を倒したのはダンジョンが見せた幻影という最悪なオチなどとは違う。
目まぐるしく、大量に押し付けられた情報の奔流に圧倒され、俺は完全に思考が停止してしまった。
「一文字君!? 無事だったのか!」
「淡島一尉! 何があったのだね!」
「医者を呼べ! 一文字君のところのスタッフもだ!」
突然の出来事に混乱しているのは、俺たちだけではない。待機していたスタッフもだ。
戻ってきた俺たちは、完全回復しているのにもかかわらず、病院と工場に搬送されるのであった。




