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問題山積み(検証)③

 キンッ、という甲高い音。

 原神を讃え響く歓声に続いて、肩を落とす球児へ労わりの声。


 原神たちはテレビの取材も兼ねて、近くの――と言ってもダンジョンから20㎞程離れている――高校で野球をしていた。



 自我があるかどうかという問いかけに対し、明確な答えは無い。

 そこで、原神たちは様々な事に挑戦させられていた。


 楽器演奏や絵画などはロボットらしい正確さを見せつけ、芸術性よりも正確さと写実性、これはどうなんだという微妙な結果に終わった。

 料理に関しては、意外と美味しい物を作っていた。レシピをなぞるだけではあったが、一度動画でやり方を学んでしまえば、ある程度再現できるという事だろう。


 スポーツに関しては、かなり微妙だ。原神同士でバドミントンをやらせてみれれば、千日手で終わる気配を見せない。お互いにミスをしないのだ。

 卓球など、反応速度がものをいうスポーツであってもそれは変わらない。お互いに反応できなくなる弾を打たせないので、どうしても膠着してしまうのだ。



 いくつもの競技を終えた所で、対人戦もやらせてみたいという話になり、近所の高校にお邪魔して色々折っている所だ。

 折っているのは主に、高校球児たちの心であるが。


 カーブやらナックルも、ボールの回転を見極められる原神たちにしてみれば、軌道の予測が容易いんだよ。

 あとは基本スペックでゴリ押しできるから、普通は勝てないと思う。


 ロボット打者に散々に打たれたピッチャーの心境はどんな物なんだろうな?

 夏休みまでに立ち直ってくれればいいんだけど。





「いやー。ロボットが野球をするというのは凄いですね。何と言うか、未来っぽいですよ!」

「すみませーん! こっちでお話を聞かせてくださーい!」

「あー、ちょっと。今度、こっちの番組にも出てみませんか? ギャラは弾みますよ」


 呼ばれたテレビ局は、地元の局であり、全国区の物ではない。

 突発的なイベントのため、人を送り込めるのが近場の人間だけだったというお話だ。


 ガチの取材という事で、原神たちを囲んであれやこれやと質問している。

 そして俺たちは妙な事をしていないか監視するべく、別室で待機だ。スマホは見える所に置いて、何も指示をしていませんよとアピールしなきゃいけない。

 不正をしていないと証拠を見せなければ、多くの人は納得しないのだから。



 今回、全国区のテレビ局は省かれている。

 大手のテレビ局の人間は緊急時に備えてすぐに人を派遣できる体制を整えているものの、今回は参加を見送ったという話なのだ。

 そのあたりの細かい調整は四宮教授がしたので、何か交渉材料を用意したのだと思う。

 俺だってドロップアイテムに50億円の値が付いた後はマスコミ対応をしたけど、その時のマスコミの対応を見る限り、奴らに遠慮とか配慮って言葉は無さそうだったからな。何らかの取引も無いのに、連中が自粛するとは思えなかった。


「で、ここで記録を作ってギネスに乗ると、一気に知名度が上がるわけですよ! 話題性は十分! 原神さんたちならいけますって! やりましょうよ!」


 ローカル局の人でも、マスコミは我が強く、押してくる人がそこそこ居るし。マスコミって、自粛とかと最も縁遠い人種だと思う。

 やっぱりマスコミは面倒くさいな。





 長い間、いくつもの質問をされた原神たちだが、精神的な疲労を感じさせない。

 こちらは様々な出演要求、勧誘を断るので、かなり疲れたというのに。

 メンタル面においても、原神たちはタフで強いと思うな。顔に出ないだけかもしれないけど。そもそも表情なんて無いスカルフェイスだけど。



「いやぁ、よく頑張ったね! これで一気に知名度が上がるよ!

 テレビ局の取材だけでなく、学生らがスマホで撮影や録画をしていたからね。動く原神の姿はSNSで一気に拡散されるはずだよ!」


 四宮教授もタフである。

 俺と同じどころかそれ以上にマスコミの対応をしていたのに、表情は笑顔、声の張りだっていつも通りだ。


「我々、学者の検証は有効だけどね。しかし、素人の検証も重要なのだよ。専門家とは違う切り口で鋭い意見を言う者が、稀に表れるからね。そういった人を発掘するためにも、より多くの人に原神を知ってもらうべきなのさ!

 それに何より、大衆に受け入れられれば、それだけで勝ち確定なのだよ!!」


 四宮教授は、今回の取材に手ごたえを感じたようだ。


 取材は生放送だったこともあり、嘘や誤魔化しが一切ない情報が世間に伝わった。

 そうやって出回った情報は、人々の判断材料とされる。

 それはそうだが、これまでより正しい情報が出回ったとしても、それで人が受け入れてくれるかどうかなど分かりやしない。



 原神が世間に受け入れられるかどうかの瀬戸際だ。

 今回の取材が今後を占う基準となる。

 正直、俺は気が気でない。落ち着かないのだ。


「上手くいきますかね?」

「大丈夫さ! それに、どちらにせよ今回だけで上手くいく訳じゃなくて、今後も頑張っていく事になるのだよ!

 もっと腰を据え、どっしりと構えたまえ!!」


 不安そうにしていると、今回の取材はただの通過点に過ぎないと窘められた。

 それはそれで、落ち着かないな。

 いや、もう何を言われても落ち着かないのだろうが。


「ガンバリマス」

「ま、取材に慣れるしかないね。数を熟せばたいして疲れやしなくなるからね」


 俺の不安は、取材の疲れによるものだと慰められた。

 そういう物か? よく分からない。


 俺の不安は、数日後のニュースを見るまで続くのだった。

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