巨顔の巨人⑤
晴海が膝を撃ち抜いたことにより、巨人は立ち続けることが出来ず、地に伏した。
能動的な動きではなく重力に引かれて倒れるのだ。
戦闘行動と違いゆっくりと倒れていくのだから、その間にも追撃が行われる。
巨人も反撃しようとするが、足が大地を踏みしめていない以上、どうしても先ほどまでより一撃が軽い。
俺たちが有利なのは変わらず、攻め続けるのに支障は無かった。
巨人は倒れた後、魔法か何かで足を治し立ち上がろうとする。
俺たちはそれを許さず回復速度を超えるダメージを与え続ける。特に大きな頭はダメージが期待できると同時に反撃リスクが少ないので、念入りに攻撃を行った。
スーパーフルボッコタイム。それにより一回目の巨人討伐に成功してしまった。
巨人は魔力の霧となって消えた。
リスクはあったものの、オケアノスの巨大化すら使わずに済んだ、思った以上に楽だった戦闘を思い返しつつ、俺は次を考える。
淡島一尉の援護に向かい、その後、撤退か。
先行させた部下さんらは俺たちから10㎞ほど進んでいるので合流するかどうか少し迷ったが、それはあっちの判断に任せる事にする。
こっちが巨人を倒した事はレドームで認識しているだろうから、合流する気があるなら立ち止まって待つだろう。
俺たちが急いであちらとの合流を目指す必要は無い。
戦闘時間が短かったため、モンスターの大群に挑んだ淡島一尉にそこまで負担をかけてはいないはず。
レドームの反応は全員健在と出ているし、敵の魔力反応は巨人のような反応は無いので、イレギュラーでも起きない限りは大丈夫。
追撃を避けるためにも一度敵をせん滅し、それから落ち着いて撤退しよう。
そうやって甘い事を考えていた俺だが、すぐに冷や水を浴びせられ、凍り付く。
「は? あ、まさか!? いやでもなんで!!」
淡島一尉の方に向かおうとした俺は、脱出目指して移動中の部下さんらの居る方角、さらにその向こう、ダンジョン入り口方面に巨大な魔力反応が発生したことに気が付く。
それは倒したはずの巨顔の巨人と同じものであり、明らかにヤバい敵の存在を示すものだった。
「――すまん!」
ここで俺は二択を強いられた。
すなわち、淡島一尉と、部下さんら一行のどちらを助けるのか。
命の選択をする立場となった。
足手まとい付きの部下さんらでは巨顔の巨人に勝てない。逃げきれない。
下手を打てばすぐに全滅する。
淡島一尉は、すぐにはやられないだろうが、時間をかけてしまえばいずれやられる。
俺は、淡島一尉を見捨て、先行した一行との合流を選択した。
そちらの方が、より緊急性が高かったからだ。
「道理で簡単に倒せたはずだよ!」
俺はこの時、以前のイレギュラーを思い出していた。
モンスターを大量発生させた連中がやらかした時の事だ。
あの時はロボット型モンスターの集団が現れ、冒険者を追いかけていた。
俺はそこに割って入り、ロボットモンスターを倒していった。
しかし敵ロボットは倒しても倒しても補充され、俺は苦戦を強いられる。
決定打に欠けるまま粘り続けると、あの連中が何かをしたのか、敵の補充はされなくなった。
あの巨顔の巨人は、それと同系統の能力を持っているのだろう。
倒しても、スポーン地点で復活するとか、そういう能力。
ある意味、それがラストダンジョンの重要なギミックになっているのかもしれない。
「どうする? 間に合うか?」
あの時の無限復活をどうにかしたのは、俺たちではない。他の連中だ。
どうやって無限復活を止めるのか、その手段は判明していない。
ここから彼らと合流するまで、それなりに時間がかかる。巨人の方が早く着くだろう。
俺たちが合流するまで、彼らが生き残っているかどうかは未知数だ。
こうなったら本当に隠している切り札を人前で使ってしまおうか。
焦りの中、俺は自問自答を繰り返す。




