巨顔の巨人④
「武運を!!」
淡島一尉はこちらに配慮したのか、それとも己の誇りに殉じる気なのか。
自分のタイタンたちだけを連れ、モンスターの後続を抑えに向かった。
嫌な言い方をすると、彼らが後方にいるモンスターの抑えをする必要は、無い。
彼らだけでは時間稼ぎが精いっぱいなので、淡島一尉がやられるまでに勝たねばならず、タイムリミットが出来たようなものだ。
個人として見れば好ましい人ではあるんだけど、もうちょっと空気を読んでほしいと切実に願う。
それとは別に、部下二人は部下二人で、冒険者を連れてさっさと外を目指し、動いている。
よってこの場にいるのは俺たちだけとなり、ようやく本気の本気、全力を出せる環境が整った。
「小兵の戦い、見せてやろうか」
現在、俺たちは全員で巨人を囲み、チマチマ攻撃を仕掛けていた。
このたとえで分かるかどうかは微妙だが、外から見ると、幼稚園になまはげの被り物をした大人が一人いるような状態である。
身長差などを考えると、だいたいそれで合っている。
敵味方のいずれも武器を手にしているので、ずいぶん殺伐としているけどな。
幼稚園児が大人を本気で殴ったところで大してダメージを与えられやしないのだが、こっちには戦うための力があるし、一方的に不利とは言わない。
体格の差は大きなハンデだが、それがすべて不利になるわけじゃないんだ。
「伐採!」
まず、巨人の背面を取っていた光織の斧が膝裏に叩き込まれた。
巨顔といえど、巨人が人体を模した存在であるなら、人体の弱点はそのまま適用される。関節攻撃は有効なはず。
体格差があるからこそ、弱点になる膝裏などは狙いやすい。
また、小兵だからこそ、巨人は背後の敵を上手く認識できず、攻撃しにくい。
馬のように蹴り飛ばすことならできるだろうが、そんな事をすれば片足立ちになり、バランスを崩してしまう。
そうなれば転ばせ、その後は一方的にボコボコにだってできる。
光織の一撃は巨人の膝裏を捉えたものの、残念ながら巨人がハンマーを振り子のように振りぬき、迎え撃った。
蹴り以外で防ぐなら、それぐらいだろう。
斧とハンマーは一瞬だけ拮抗したが体重差により、光織がはじかれただけに終わる。
光織の一撃は不発に終わったが、それでも巨人がハンマーを振りぬくという動作を誘発できた。
この瞬間であれば、巨人はハンマーを使えない。
「目潰し!」
そこに、今度は六花の剣が襲い掛かる。
刃を伸ばし、兜の隙間から巨人の眼球を狙う。
「アタリが出たからもう一回~!」
同時に、もう片方の膝裏を晴海が殴ろうとする。
いや。参式で足を固定しているので、漆式パイルバンカーによる一撃か。
それだけではなく、タイタンの何体かは槍を撃ち出して追撃を仕掛けていた。
初手の光織を囮に使った多段攻撃、防御を飽和させる多方面からの同時攻撃である。
敵がデカいのだから前方投影面積、要するに的も大きく、こういう戦い方ができるのだ。
特に顔が大きいというのは、弱点が狙いやすいって事でもあるんだよ。
人間の体が最善というのは言い過ぎだが、それでも進化の中で最適化され、今の姿があるんだ。
体と比較しバカみたいに顔がデカいってのは、いろんな意味で致命的だと思うな。
六花の剣は兜の隙間に届いたものの、顔を振られて切っ先を折られた。
槍は直撃したが鎧をへこませただけで、大きなダメージは無し。
折られた刃が目を傷つける事に成功したのか、巨人の目から血が流れたのが見えた。
大きなダメージにはつながらなかったが、槍もダメージを与えたのだから、無駄ではなかった。
そして晴海の一撃は。
「日本一~」
巨人の膝を破壊し、巨体を沈めるのに成功するのだった。




