巨顔の巨人③
別に、俺に英雄願望とかがあるわけじゃない。
勝てると思うから、勝算があるから戦うことを決めただけだ。
友人でもなんでもない誰かを逃がすため、時間稼ぎの結果、死んでしまうとか。そんな未来を選んだりしない。
俺は死なない。
生きて――あー、添い遂げる相手、まだいなかったな。
ツインバスターライフ○もないし。
悲しい。
とにかく、俺はこんな所で死んだりしない。
巨顔の巨人だが、単純にオケアノスを巨大化させて戦えば、巨大化の制限時間内はそれだけで互角の戦いが出来る。
敵の持つ最大のアドバンテージが崩せるのだ。有利にならないわけがない。
そこに俺たちが加われば、数の利で圧倒的に有利な状況へ持ち込めるだろう。
俺たちだって火力は出せるのだ。
俺は首がもげようが、上半身と下半身が生き別れになろうが、即死はしない。再生できる。
相応に魔力を消費するだけで死を回避できる俺は、ちょっとぐらい無茶をしていい。
そのうえでさっきみたいな攻撃そらしとか、やれることが多数。
三人娘も万華鋼装備がある。
光織の斧は、こちらも巨大化能力で火力が高い。ダメージは十分に期待できる。
六花の伸びる槍も、ジャンプなどをしないで上まで攻撃を届かせられる。
晴海の万華鋼装備は攻撃反射の盾で相手の攻撃力をお返しすれば、火力不足にはならない。
多数のタイタンもいるので、後方にいるモンスターの群れだって押さえ込める。
この戦場でイレギュラーが発生することがあるとすれば、それは巨顔の巨人がまだ何か能力を持っていた時ぐらい。
俺たちだけなら、勝利への道筋はあるのだ。
とはいえ、それらを淡島一尉に見せるかというと、そんなことはしないと決めている。
ティターンのことも、万華鋼のことも、秘匿したままで終わらせる。
だから、淡島一尉の前でそれらは「使わない」。
もちろん、舐めプをしたまま戦えば巨顔の巨人には勝てない。
巨体だから火力と生命力が馬鹿高いし、鎧を着ているので防御力も十分。km単位の距離をあっさり詰める速度だって脅威だ。更に更に、最初に俺たちを殺す幻覚を見せるという搦め手まであるのだ。
こちらも切り札の一枚や二枚は使わないと苦戦、敗戦は必至である。
出来ることと言えば、「すぐには死なない」戦い方ぐらいになる。
「そのうち死ぬ」戦い方とも言えなくもない。
淡島一尉は、こちらの足を引っ張る邪魔者でしかない。
つまり、状況を打開したければ淡島一尉を遠ざける必要があった。
「提案、です!」
「分かっている! 後方の敵を抑えろというのだろう! むしろ、そのために残った!!」
正直なところ、これはあまり言いたくなかった。
淡島一尉は邪魔だが、俺は彼を殺したいわけではなかったからだ。
それでも、勝つために、俺は淡島一尉に、死ぬかもしれない場所に行ってくれと言おうとした。
すると、淡島一尉は俺の言葉を先取りした。
多勢に無勢。それでも淡島一尉は自身のタイタン4体だけを率いて、モンスターの集団を押さえ込んでやろうと意気込む。
それは、俺の所のタイタンにやらせるつもりだった事である。
俺のタイタンたちであれば、20体いるのでモンスターの群れだって押さえ込める。
しかし淡島一尉たちだけでそれはできない。一人と4体では手が足りないのだ。
俺のタイタンを貸し出すのも、出来れば避けたい。
タイタン抜きで勝てば、間違いなくその手段を探られる。
タイタンありで戦えば数の暴力で勝ったと強弁することも出来るが、その手段が封じられてしまう。
だから、向かわせるのは淡島一尉たちだけである
こうなると、モンスターの大群にのまれ、淡島一尉が死ぬかもしれない。
こちらを手早く終わらせれば、死なないかもしれない。
自業自得、空気を読まない人への罰。
そう考える事で、俺は無駄にハイリスクな賭けにベットした。




