巨顔の巨人②
敵の動きが思った以上に速い。
俺は仲間が立ち直るまでの時間を稼ぐべく、前に出て迎え撃つことを決めた。
一瞬で間合いを詰めてきた敵は、三頭身の巨人だった。
身長は8mほどだろうか。一般的に巨人というと、全裸だったり毛皮を纏っているイメージだったが、この巨人は金属製の鎧を身にまとい、まるで騎士のような姿だ。
手にしたハンマーのような武器を振りかぶる様子はゲーム的な騎士とは違うけど、実際の戦場では、金属鎧に有効なハンマーを持った騎士も多かったと聞く。ある意味、騎士らしい奴と言えなくもない。
もっとも、三頭身という顔が異様に大きい姿を見ると、巨人という事もあってギャグキャラと表現してもよさそうだが。
俺は巨人がハンマーを振りかぶっていたので、大ジャンプをして巨人の肘を横殴りする。
そうすると、近くに仲間に振り下ろされようとしていたハンマーの軌道が逸れて、巨人は何もないところを強打した。
その一撃で雪煙が舞うどころか地面がえぐられ、周囲に土や石をまき散らした。
「パワータイプ! 足も速い!
淡島一尉! 自衛隊は要救助者を連れ、そちらのタイタンと撤退してください! こいつは俺たちでどうにかします!!」
一当てしてみて分かったこと。
こいつは、かなり強い。
それこそ、ドラゴンよりもかなり格上だ。これまで戦ってきたモンスターの中でも別格である。
下手すると、こいつがこのダンジョンのボスかもしれない。
そう思えるほどだった。
だから俺は気兼ね無しに全力で戦えるよう、自衛隊の一行に冒険者を押し付け、自分たちだけで戦うことを決めた。
俺たちが全力でやれれば勝てなくもないが、足手まといがいては勝てなくなると思ったからだ。
幸いと言っては何だが、冒険者を連れ帰るという大義名分があるため、そういった要求を出しやすい。
さすがに「足手まといだから先に逃げろ」と言われて逃げる自衛隊の隊員などいないだろうからね。
そんな俺の内心を無視し、淡島一尉は反論する。
「一文字君も民間人だろう! 見捨てるわけにはいかない!」
「帰る途中にモンスターがいないとも限らないでしょうが! そっちはそっちで、こっちはこっちで戦った方が、全体の効率が良いんですよ!! 要救助者もいるでしょうが!!」
「しかし!!」
この人は他の人より胆力があったのか、幻覚攻撃の混乱からいち早く立ち直ったのは良いけど、今は、相手をするのが面倒だ。
ごちゃごちゃ言わずはやく撤退してくれと、心から思う。
すると、面倒な事に淡島一尉をフォローするかのように、部下二人が勝手な事を言い出した。
「隊長、ここには隊長の小隊を残し、我々が彼らを連れ帰ることを提案します!」
「彼らがいては、一文字さんも安心して戦えません! 一刻も早く動くべきです!」
この二人は、あろうことか、淡島一尉をここに残し、自分たちが冒険者を連れ帰るという提案をしやがった。
言っていることは分かる。
タイタンに抱えられた冒険者たちも、俺も見捨てられない。
目の前の巨人は放置できず、誰かが相手をしなければいけない。
目の前の巨人と戦う最適解は俺である。
冒険者を減らさないと、俺が不利になる。
それらすべてをどうにかするために、部隊を別ける。
彼らの都合、彼らの視点で言えば、これ以上は無い回答だと思うよ。
ただし、俺にとって最悪に近い回答だったというだけで。
その場に全員がとどまり全員で迎え撃つとかいう、最低最悪そのものの回答ではないが、それでも俺にとっては実に嫌な提案だった。
「よし、それでいく! 二人は急いで撤退せよ!」
「「了解!」」
「了解じゃない! 全員で戻れよ! 足手まといなんだよ!」
俺の本音が思わず漏れたが、淡島一尉の判断は覆らなかった。
面倒な事に、俺は枷をつけられた状態で巨顔の巨人と戦う事になるのだった。




