問題山積み(検証)②
俺と四宮教授は、他の学者や研究者たちから一斉に責められていた。
「彼らの人格を無視するような行為ではないかね!?」
「貴方にとって、彼らは子供のようなものでしょう? それなのに何故……」
「四宮君。君には失望したよ。君には人として重要なものが欠落しているのではないかね?」
「なぜ、君たちは彼らに『名前』を与えなかったんだ!!」
その理由は単純明快。
俺たちが、原神に名前を与えていなかったからだ。
自我の確認をする前に、研究者の一人がこんな事を聞いてきた。
「彼らの名前は?」
相手が人間と同じく、自我を持っていると考えていれば、ごく自然に気になる事だろう。
普通の人間は名前があるのだから、呼び方を確認するために聞くのは、彼にとって当然だった。
だから俺がこの問いに答えられず、『原神』という機種名をそのまま名前として使っていると知った時の彼らの反応は凄まじかった。
この失敗により、俺たち二人は彼らから総スカンをくらう。女性陣が俺たちを見る目は特に冷たく、厳しい。
偉い人の中でも、代表格のお爺ちゃんな人は四宮教授に懇々と説教をしている。
相手は声を荒げてはいないものの、その内容はド正論であり、反論の仕様が無い。反撃不可能の説教により、正座する四宮教授はそろそろ土下座になるのではないかというぐらい頭が下がっていた。
俺の方は残りの研究者たちと、こうなった経緯についてちゃんと説明をしていた。
「つまり、彼らが受け入れなかったと?」
「はい。原神という繋がりから、『アマテラス』『ツクヨミ』『スサノオ』と名付けようとしたら、一斉に嫌がられました。『ブラフマー』『シヴァ』『ヴィシュヌ』も却下されたし、神々の名前を貰うのは嫌だという事みたいで。
はい、ネーミングセンスが無くて、ごめんなさい」
「……彼らはゲームのキャラクターじゃないんだ。その事を、忘れないように。
と言うかだね。普通に、自分の子供に名前を付けるとしたらと、そういった視点で物事を考えられなかったのかな?」
「仰る通りです」
要は、俺たちにネーミングセンスが無いという話。原神たちから拒否されるほどに。
そして名前が決まらないまま、『原神』という呼び方がそのまま定着してしまった。
この話を聞いた人たちは一様にあきれ返り、可哀そうなものを見る目で俺を見た。
仕方が無い事とはいえ、辛い。
そして子供に付けるような普通の名前で良いじゃないかと言われるものの、子供の名前なんて考えた事も無いんですけど!
結婚を考えている恋人もいないのに、そんなこと考えないよ!!
こうして俺たちは説教をされ、名前は宿題として考えておくことになった。
この場ですぐに決めるのは、それはそれで原神たちに失礼だからね。
雑にならないように、ちゃんと考えなさいと言われた。
すんませんでした!
そんなアクシデントはあったものの、自我の確認についてはわりと早い段階で「ある」という認識を持たれた。
「確証はないものの、私たちの目には「ある」ように見えたと言うだけです。
そんないい加減な事でいいのかという人もいますけど、それを言い出せば人間の自我だって不確か曖昧なものですから。
最近は人間の発言を収集して、その人が言いそうな会話をするプログラムまでありますし。ただのプログラムでも、本当に人間が受け答えしているように見えますね。
それにそこの誰かさんは、そういった事が得意なんですよ」
それでいいのかと思ったけど、こういった事の判定は難しく、簡単にはいかない。
だから彼ら研究者はそれぞれで独自の基準を作り、それをクリアしているかどうかで判断をする。
“こういった基準をクリアしましたよ”とは保証するものの、それ以上は知らないと言い放つ。
その在り方は、ある意味、潔い。
そういえばと、四宮教授も基準を持っているのだろうか?
「私の場合は、基幹プログラムの自己改変と自己拡張、そして自己保存だね! ユニークなアイデンティティとは、己で作り上げるものであり、他者の干渉を受け付けないものなのさ!
その人格を他者との関係で作り上げる事は良いけれど、人に作られたままでは、まるで人形じゃないか!」
人によっては、未知への挑戦だとか、芸術性・表現力を重視する。
それを見るのに料理を作らせたり、絵を描かせたり。原神たちはスポーツに挑ませられたりもしていた。
本当に、人によって基準や判定方法が全く違う。
だが、自我などそこまでやってもその存在を断言できるものではなく、人と機械の差を埋めるのには途轍もない労力を要する。
今回のような、技術の進歩ではない、ダンジョンでのレベルアップという規格外の手段で自我を得た場合は、特に難しい。
研究者たちは、それでも楽しそうだったけどね。
目の前に未知の存在がいて、自分たちの手でその神秘に挑めると言うなら、それが幸運な事だと言わんばかりだ。
金銭報酬が発生しない、自腹の検証だというのに、誰もが次に何をするのかと笑顔で話し合っている。それも、この場ではできそうにない、金のかかりそうなことも含めて、だ。
「それが研究者というものだよ!!」
「俺にはできそうもない職業という事だけは、分かりました」
「そうかね? 一文字君も、鍛冶を楽しそうにやっていたではないか」
「まぁ、そうですけど」
楽しそうにしている研究者の皆さんを見て、俺は「アレと一緒にして欲しくは無いなぁ」と、そんな失礼なことを考えていた。
だって、マッドっぽいもんなぁ。