巨顔の巨人①
面倒くさいやり取りを終え、氷スライムの一件は、ひとまずの決着を得た。
俺のポーションという持ち出しはあったものの、起きてしまった事を考えれば、最悪はちゃんと回避できたと思う。
場の空気はまた悪くなったけど、これが最後の休憩だし、あと数時間の辛抱なので大きな問題ではない。
最後の休憩から1時間、2時間と歩いているが、全員言葉少なく、黙々と歩いている。
あと少しで家に帰れると思うと、つい気が急いてしまう。
だが、悪い雰囲気ではない。
タイタンに抱えられている冒険者も、自分の足で歩いていれば、やや速足になっていた事だろう。
会話は無かったが、みんな気持ちが浮つきだしているのが分かった。
帰ったら、まず最初に風呂に入ろう。
報告書とか全部あとにして、ゆっくり寝て、起きたら美味いものを食べよう。
気絶している人を病院に放り込んで、その家族に連絡するのを忘れちゃいけないが、そういうのはパーティメンバーの仕事だし、俺のやる事じゃない。
仕事から離れ、落ち着くべきだ。
減った魔力もそれなりに回復しているし、出口近くとなれば敵も弱くなる。
周辺の警戒は三人娘がやっている。任せてしまって大丈夫だ。余裕はある。
だから一団のほぼ最後尾を歩いている間、俺は頭の中でそんな事を考えていた。
そう考えている間に、俺は背後から襲ってきた何かに叩き潰され、絶命するイメージをぶつけられる。
「はぁっ!? 何が、アレか!」
何をされたのか。
予測であれば簡単だ。
死のイメージを叩きつける、最近覚えた技を何者かにやられたのだろう。
俺自身は経験していないが、それぐらいは思いつく。
周囲を見れば、三人娘はともかく、タイタンたちは混乱中である。
レベルアップで自我を得た影響もあるし、タイタンはそもそもがロボなので記憶と現状のギャップに弱い。
付け加えれば、『未知』の攻撃に弱いことも影響している。
俺や三人娘は、そういう能力があるのを知っていたから混乱していないとも言える。
人間の方も、俺以外は「殺されて」混乱しているのはまだマシで、死の恐怖に震え、動けなくなっているのが数人見受けられた。
死にかけるぐらいの経験はあっても、普通は本当に死ぬ経験なんてまずないのだ。
冒険者のくせに情けない、とはならない。下手すればショック死という事もあり得るので、生きているだけで良しとしておく。
「後方、モンスター多数! デカブツもいる!!」
そうして攻撃を受けたことに気が付き、移動に割いていたリソースも全部突っ込んで周囲を精査すれば、後方にモンスターの集団が見つかった。
思ったよりも近く、吹雪を加味しても普段であれば移動中でも気がつけた距離だったから、何かしらのステルス能力でも使われたのだろうと予測された。
思ったよりも近いとは言え、俺と対モンスターの大群は1km以上も離れている。
死の体験によりこちらの戦力が激減しているので、これだけ距離があるのは助かった。
アレをもっと近付かれた時に使われていれば、不意を打たれていたかもしれない。
これだけ距離があれば立て直す時間を得られる。
そんな甘いことを俺は考えたが。
「嘘だろ!?」
人間の4~5倍はある巨人によって、その距離が数秒で失われるのだった。




