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分裂・分解③

 俺のセールストークは、彼らの分断を促進したと思う。

 俺が何も言わなければ、収入減を嫌ってそのままでいた未来があったかもしれない。

 しかし別れてもなんとかなると理解したことで、もう我慢しなくていいと判断した。


 この流れは悪いことではなく、良い方向に働く。

 「これからも我慢しなきゃいけない」と思って付き合いを持つのと、「どうせここから先は他人だ」と思いつつ顔を合わせるのでは、心への負担が違う。


 嫌いな上司に部下の立場で相手をしなければいけないなら、状況に強制されるので精神的な負荷が強い。

 嫌った相手が元上司となると、どうでもいい、関わらないでおこうと距離を取れる。

 この差は大きい。


 「好きの反対は無関心」という言葉があるが、アレは状況も込みで考えると、あんまり正しくない。

 無関心に振る舞える状況があってこそ、好きの反対は無関心なのだ。


 そういう意味ではパーティを解散させても問題ない、無関心に振る舞える下地を作ったことは、褒められてもいいんじゃないだろうか。



 それとは別に、自衛隊の方も内部分裂が収まりつつある。

 部下二人は淡島一尉を隊長として認めるかどうかは横に置き、この場は彼が隊長なのだと心に整理を付けたようだ。

 対応が少し柔らかくなり、元通りとは言わないが、昨日よりはずっと雰囲気が良くなった。


 彼らも場の空気を悪くしていた自覚があったのだろう。

 言葉は無かったが、こちらに軽く頭を下げるぐらいには罪悪感があったようである。


 ケンカとか、当事者だけですむことの方が稀だからね。

 ケンカをした当人同士のどちらが悪いかと関係無く、巻き込んだ周囲には関係無い。

 双方が周りに頭を下げることもある。

 なお、淡島一尉からは昨日のうちに謝罪を受けたよ。



 この時は、平和に脱出したい俺の祈りが通じたのだと思ったよ。

 ただ、ダンジョンはそこまで優しい場所では無かった。





 事が起きたのは、あと5時間ほど歩けばダンジョン脱出だという地点である。


 そこに着いたのは夕方であったが、その日のうちにダンジョン脱出を目指すとして、最後の休憩を取っていた。

 ここから先は、休憩無しで一気に駆け抜ける予定だった。


 これまでに拠点キャンプで物資を回収してあったので、物資も節約しなくていいと、豪華な食事にした。

 食べ過ぎは良くないので、残った物資の中でもお値段高めの食材を優先して使い切っただけだが。

 それでもこれまでで一番美味い飯は、俺たちを笑顔にしてくれたんだよ。



「それじゃ、そろそろドームを消すよ」

「おう」

「ありがとな」


 俺にとっては魔法の維持が大変な休憩時間が終わる。

 それでも、もうすぐ外に出られると思えば、気力は十分だ。


 残り魔力を考えるとガチの戦闘は厳しいが、外まで移動するだけなら問題ない。戦闘は仲間に任せれば良いのだから。

 その仲間たちは俺と違い魔力も十分に回復しているのだし、大丈夫と思っていた。



 荷物のように抱えられる冒険者たち。

 周辺を警戒する自衛隊、タイタンや三人娘。

 さあ出発だと腰を上げたタイミングで。


「くっ、あぁっ!?」

「痒い! 痒い!」

「い、痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い……」

「う、ぐあぁぁっ!!」


 その中で、氷スライムの自爆攻撃を受けて足を損なっていた冒険者4人が、急に苦しみだした。

 何事かと思いそちらに意識を向ければ、彼らの凍らされ壊死した足から異常な魔力が発生している。

 それにより、患者四人が自身の体の異常を感じ、苦痛を感じているのだ。


 凍傷対策という事で何度か応急処置をしていたが、その時には何も無かった。

 それなのに、今頃になって問題が発生した。

 氷スライムの自爆には、何かしらの、時限爆弾的な仕掛けがあったようだ。


 俺は一番近くに居た苦しんでいる男のズボンを切り裂き、太ももから下を露出させる。

 壊死した膝から下、そこに氷スライムが湧き出していた。足の肉を食い、回復しているようにも見えた。


「潰せ!」


 とっさの判断で俺は彼の足を切り落とし、タイタンに氷スライムの処理をさせる。

 そして切り落とした足にポーションを使い、処置をする。


 ポーションは貴重だが、ここでケチっても仕方がない。

 氷スライムの被害に遭っている全員に同じ処置をする。

 俺はそのつもりであった。

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