凶兆②
ダンジョン内の移動で一番問題になるのは、「足」の速さである。
ダンジョン系のゲームでよくあるパーティ編成を見ると、重装鎧の戦士とか騎士が混じっているが、ああいうのはあまり良くないと思う。
一人だけ足の速さに大きな違いがあると、足の遅い人に移動速度を合わせるため、何をするにしても文字通り「足を引っ張られる」。
特に、逃げる時は足の遅さは致命的だ。
今回の場合、怪我人のみならず、冒険者の足の速さに合わせていると移動に支障が出ると判断し、冒険者は全員タイタンが抱えている。
これは地雷モンスターの氷スライム対策でもあるので、問答無用でこちらの意見を通した。
ただ、強引に意見を通した分、多少の譲歩と配慮は必要だ。
相手の言い分に一理ある場合はなおさらである。
「うあ、駄目だ、吐く……」
「一旦休憩しますか」
1体のタイタンたちが複数の人を抱えて移動している。
で、タイタンは乗り心地がそこまで良くないので、乗り物酔いする人が出てしまった。
ダンジョン内という事もあり、獣道しかないので揺れが酷いってのもある。こればっかりは仕方がない。
ちょくちょく吐かれても困るので、こまめに休憩を入れている。
そんな事をするぐらいなら移動速度を落とせばいい、そして冒険者を歩かせればいいとか思われそうだが、それはできない。
歩かせた場合、彼らは吹雪で塞がれた視界、太ももの高さまで積もった雪、体温を奪う寒さの全てに自力で対処しないといけなくなる。
そこまでやらせると結局同じペースで、もしかしたらそれ以上に休憩が必要になる。
だったらタイタンが抱えた方がまだマシなのだ。
それと、これを口にする気はないが、彼らを弱らせておきたいという事情もある。
元気が残っているとロクでもない事をしそう、言いそうだから、しょうがないよね。
「ほい。じゃあ、今から30分の休憩ね」
なお、休憩する時には俺が吹雪を阻む風のドームを作り、内部の雪を溶かし、ついでに空気を暖めている。
休憩の効率を良くするために、サービスしているのだ。
俺は火と土属性の精霊銀の魔法剣を持っているから多少はマシだけど、それでもこれだけの魔法を使うとなると、魔力コストが重い。
だから移動中は移動に専念し、魔力の節約をしている。
戦闘や周辺の警戒は三人娘、自衛隊の人とタイタンたちに任せているよ。
付け加えると、この休憩は魔法を使い続ける俺にとって休憩ではない。
魔法を使い続けるために集中していたいし、緊急の用事でもなければ声をかけないようにお願いしている。
もちろん脱出までの予定を話し合う時とかは魔法よりも話し合いを優先し、会話に参加するけどね。
そうでもなければ静かにしていたいんだよ。
余計な声を拾いたくないから外部の音をシャットアウトし、無音の中で魔法を使っていた。
この時の俺は、保護している冒険者たちとの会話を意識して避けていた。
あまり好ましい連中とは思えず、互いに余裕のある平時ならともかく、今はマトモな会話になると思えなかったからだ。
相手もそんな俺の雰囲気を察し、俺には何も言わず、何か要望があれば自衛隊に話しかけるようにしている。
だから俺は驚いた。
俺が作る魔法のドーム。そこから出て、何事か内密で相談しにいった冒険者を、淡島一尉が殴り飛ばしたことに。




