撤退戦④
3日目拠点キャンプより少し手前。
俺たちは、そこで「逃げれなかった人たち」を見付けた。
その数、15人。
「すまない。モンスターから正体不明の攻撃を受け、仲間が負傷したんだ。助けてもらえないだろうか?」
今回のダンジョン攻略では、現在のような「極寒の世界」に切り替わる事が予想されていた。
そうなった時は攻略参加者全員がすぐに撤退する予定だったが、タイミングなどの問題で逃げ遅れた冒険者の一団がいた。
彼らがこんな所にいた理由だが、逃げる気が無かったのではなく、ちょうど拠点キャンプから離れていたタイミングで世界が切り替わったのが原因である。
しかも、途中で凍りスライムを踏んでしまったのだとか。
それで大ダメージを負った仲間を見捨てられず、動けない仲間を抱えて全員で逃げ遅れている。
運が悪かったと言ってしまえばそれまでだが、仲間を見捨てない判断は悪くない。
全滅のリスクはあったものの、こういう場面で仲間を見捨てると、「次に見捨てられるのは自分ではないか?」と後々まで響く。
結果論で言っても、こうやって全滅前に俺たちが間に合ったので、正解だったわけだ。
そんな彼らから助けを求められたわけだが、これについては俺たち4人、全員が「助ける」で意見が一致している。
彼らを守る事については戦力的に問題ないし、食料などの物資だって余裕がある。
現在手持ちの食料は180食分。19人で食べたとしても、9回分も有るから3日は持つ。そして帰るまでに拠点キャンプは3つあり、追加も見込める。
ここは強行軍で帰れば2日、無理をせずとも3日で帰れる位置なので、多少のリスクは背負っていいだろう。
冒険者のダンジョン内での活動は基本、自己責任だ。
しかし、だからこそ無事に連れ帰れば報酬が期待できる。
ダンジョン内では常にカメラで撮影しているので言い逃れなど出来ないし、そもそもラスダンに通えるような冒険者は資産にかなり期待できるので支払いを渋られる事が少ない。
社会的な名声も得られるので、メリットは大きい。
彼らを抱えるデメリット、帰りの足が遅くなるのは仕方がない。
タイタンに3~4人ほど抱えさせれば言うほど足が遅くなる事もないだろうし、そこでタイタン5体分の戦力が減ったところで戦力低下は軽微だ。
強いて無視しにくいデメリットを挙げるなら、相手が人間だってことぐらい。
俺たちはここまで4人でやって来て仲間意識があるし、装備も見た目は差が無いので、意見も足並みも揃えられた。
ここにバトルクロス非着用、タイタン未所持の冒険者グループが加わる事で、グループ間の利害関係、意見の食い違いが出る可能性が出てきた。
ただ、こちらは救助するがわで、彼らは救助対象。
立場としてはこちらが強く、相手が「報酬を後で払うのだから」と、お客様気分であれこれ要求してこない限りは大丈夫の筈。
この時はね。そう思っていたんだよ。
たった3日。
物資や戦力に余裕あり。
相当なアホでもない限り、無茶は言われない。
そんなふうにね。
……人間って、想像以上に馬鹿なんだよ。
そしてストレスに弱い。
最近は近くに居るのが人間的に出来た人ばかりだったため、俺はそのことを忘れていた。




