再現実験③
何度か実験をすると、被験者がいなくなった。
まぁ、一度二度なら死を体験しても日常に復帰できる人もいる。
けど、三度四度と死んでも大丈夫な奴は、なかなかいない。
四宮教授の人脈は広いけど、それでも限界はある。
再現実験は終わった。
最後の実験を終え、わざわざそれに付き合ってくれた九条さんは、どうしても自分には再現できない俺の能力に疑問を呈した。
「しかし、なんでこんなケッタイな能力を得たんだ?」
「さあ? できるようになる直前、何かがあったと言えば、ソロでラスダンに潜ったことぐらいじゃないでしょうか」
「そこで何かあったのか?」
「いいえ? いや、もしかしたら……」
九条さんはベテランだ。
俺より長くラスダンに挑み、戦い抜いてきた人である。
そんな九条さんでも、俺のように「殺意」を形にできない。
ベテランの九条さんと俺との違いは、正直、言えない部分でたくさんある。
言えない事、最初はいっぺん死んだ事とかがトリガーだったかもしれないと思ったけど、ちょっと思い直した。
それよりも、ラスダンにソロで挑んだとき、帰り際に受けたあの殺気。
遠くにいるだろう推定ダンジョンボスの強烈な存在感を認識したことで、俺が何かに目覚めたというのは考えられないだろうか。
何の確証もない仮説だが、一応はあり得る話だ。
今は証明する手段が無いけど、九条さんとかもソロ戦に挑戦すれば、この仮説が正解かどうか分かるかもね。
「……まだ、そのリスクは背負えねぇなぁ。行きてぇんだけどなぁ」
「仕方がないですよね。九条さんには立場もありますし」
もっとも、それが実現するのはいつの日だろ。
そこさえクリアしてくれれば、この能力を公開することも可能になるのに。
なお、三人娘。
「ぴと」
「捕獲」
「確保?」
これをやると、俺にくっつく。
どうやら三人娘にも俺の幻影は見えるようで、しかしログを確認するとなぜか見えない。思い出せるのに思い出せないというバグが生じる。
記憶としては存在して、光学的には存在しないという理解不可能な状況への対策として、俺にくっつく。
見えてしまったものは横に置き、実物の俺がその場にいる事を触覚で認識し、あれは幻影、見間違いと思い込むことで精神を正常に保っている。
この子らの記憶がデジタルなのかアナログなのか。そこの仕組みは簡単だ。
三人娘に限らず、人格持ちのロボはたいがい、重要な情報以外は記憶を映像から文章に圧縮するようにしていて、さっさと忘れてしまう。
だから文章記憶で俺が誰かを殺すのが見えていたのを覚えているのに、圧縮されていない映像記憶にそれが無いから混乱するのだ。
正直、慣れてもらわないと今後に響きそうな気もする。
ダンジョン内、モンスターとの戦いで同じことをやってしまうかもしれないからね。
……いや本当に、慣れてもらわないと拙いかもしれない。ピンチか?
そこらへんも、どこかで……あ。
「人間じゃなくて、モンスターで検証すればいいか。
とりあえず、ゴブリンでもしてみるかな」
そうだよな。
人間を相手に実験する方が問題だった。
高額の報酬(慰謝料込み)を払って実験しなくて良かったじゃないか。
ここまでも、プライベートで自宅にあるゴブリンダンジョンへ潜ってはいたけどね。そっちで実験するって発想が無かった。
ダンジョンで発動させたこともなかったし。
さて、どうなるかな?




