問題山積み(希望)
「では、発想を変えようか」
悩み落ち込んだ俺。
四宮教授は「ならば」と、考え方を変えるように俺を誘導する。
「原神たちが理由で我々が狙われるのは、一文字君が原神たちの所有者だからだ。
また、守り切る力が無いのだから、所有権を抜きにしても、手元に置くならやはり狙われる。
問題の解決には、一文字君が所有権を手放し、守りの堅い何処かに引き渡すことだ。ここまではいいかな?」
四宮教授は、まず前提条件を確認した。
異論は無いので、俺は黙って頷く。
「しかし、だ。所有権を手放したとしても、二度と会えなくなる訳ではない。また会いにいく事も可能なのだよ。
原神には心があるのだから、彼らのメンタルケアの一環として、一文字君が会いにいく権利を主張する。そこまで不思議な話ではないと、そうは思わないかい?」
「あ!」
言われて気が付く。
売ってしまえば二度と会えないかの様に考えていたが、面会の権利を手に入れれば、また会えるじゃないか!
「他にも、こういうのはどうだろう?
原神たちの人権を、社会に認めさせる。
あとは原神たちが自衛隊などに所属する必要はあるけれど、休暇になれば彼らから会いに来てくれるのではないかな。
時間はかかるが、偉い人の間でそのための議論が行われているようだから、荒唐無稽なお話ではないのだよ」
おお!
なんか希望が見えてきた!!
手放さないといけないのは変わらないけど、その中でもマシな条件を引き出せられるなら、それなら!
「また、一文字君が自衛隊に入るという選択肢もあるね。その場合は自衛隊が盾になってくれるから、安全は確保できるはずだね。
原神と同じ職場で働くというのも、選択肢にはあるのだよ」
あ、それは駄目です。
ああいった規律の厳しい組織は、俺に合わないので。
「これらを成し遂げるには、一文字君の協力が必要だね。
具体的には、原神の調査さ。人工知能の進化がどのようなものか理解してもらい、正しい認識を持ってもらう事が必要なのさ。
可能なら、メディアへの露出も考えよう。これまでのような秘密主義では理解を得られないからね。
理解されず、誤解から周りの協力を得られないのは困るのだよ。逆に周りが助けてくれるならば、こんなに心強いものはないのさ!」
四宮教授は自分たちだけで対処できない事態に対し、周りを巻き込み味方につける事が必要だと説明する。
そのための対話、情報公開を研究者だけでなく、一般にも行う。
四宮教授の提案は、耳目を集める事で手出しを防ぐやり方だ。
他人とは、何もしない人間に無償で手を貸してくれるものではない。
しかし自らが必死に足掻き、頭を下げ、利を説けば、動いてくれる事もある。
相手の事情次第では、それでもどうにもならない事がある。
それはそれで、仕方がないと諦めるしかない。
ただ、何もせずに諦めるのは良くない。勝手に「あの人はきっと協力してくれないだろう」と決めつけてはいけないと四宮教授は力説する。
「リソースは有限であるから、後回しにするのは構わないと思うがね。
だが、出来ない理由を並べ立て、やる前から諦めてはいけない! それは“賢い生き方”ではなく“賢しい生き方”なのだよ!
困難を前に思考停止する癖が付けば、俯き生きていく事しかできないではないか! 出来ない理由は、この手で打ち砕くためにあるのだよ! 膝を突くためではない!!」
過去に何があったんだろうかと、俺が心配したくなるほど四宮教授は熱くなっている。
その熱気にあてられ、俺の思考がクールダウンした。
すると、俺の変化に気が付いたのだろう。それまで拳を握り熱弁していた四宮教授が急に声を落とし、穏やかな顔をした。
「ふむ。落ち着いたようだね」
「いえ、先程までの……。ああ、そういう事ですか」
「うむ! パニックになりそうな時、パニックを起こした誰かが居ると冷静になるようなものだね! 熱過ぎる語りは周囲の者をドン引きさせ、冷静にする効果があるのだよ!」
あの熱い語りは演技か。
さすが大学教授。芸が細かい。
「いいや! アレはあれで本心だとも!!」
アッ、ハイ。
「落ち着いたようだから、不確定な希望を与えても大丈夫だろう」
色々と思うところはあったが、話を再開された。
「どちらにせよ、原神の売却は、一年二年の辛抱なのだよ」
「それは、どういう事でしょうか?」
「及川くんから聞いているだろう? 自衛隊は、原神を三百も購入したのだよ。
それはつまり、三体編成百組がダンジョンに投入されるという意味だ。4号機と5号機はレベルアップ一回では人工知能が進化しなかったがね。それだけあれば、自衛隊の原神も人工知能が進化すると思わないかな?
あとは、自衛隊の原神が数組、自我を獲得したときに、君の原神を返してもらえるように話を通しておけばいい。
自衛隊も予算は厳しいからね。返金があるなら、そういった話も通せるというものだよ」
希望的観測、不確定な未来。
それはさっきまでの張り詰めた俺には与えられない光だった。
下手にああいった状態の人間に聞かせると、希望に縋り付き、そこで考えるのを止めて、努力を怠るからだ。
「祈りは努力ではないのだよ。
『天は自ら助くる者を助く』のだからね!」
敵わないなぁ。本当に。