不正騒動①
探偵は、多数の企業と合同で依頼を行った。
俺たちのところが一番の大口ではあるものの、他の企業だって言い分があるし、こちらの考えに従わなきゃいけないわけでもない。
当初の目的が「企業からダンジョンを取り上げようとする市民団体との戦いに勝利するために」と一致しているが、その方法まで一致しているわけじゃないんだよなぁ。
情報は共有するが、その使い道は自由というのが取り決めのため、その後に関してはそれぞれで勝手に動く事となる。
俺たちはギルドと協力関係にあるとして、内部の自浄作用に賭けた。
警戒されているだろう史郎のところには情報を流さず、埼玉の冒険者ギルドに情報を渡して、あとはそっちで頑張ってもらう。
他のところがどうするかまでは知らないよ。
いちいち話し合って動きを決める段取りになっていたら、今ごろ大変な事になったんじゃないかな?
協力し合うことで大きな力を得られることもあるけど、状況によってはそれぞれが独自判断で動いた方が良い事もあるだろうし。
今回は、きっとこの方が上手くいく。
たぶん。
……だといいなぁ。
「冒険者ギルドの腐敗! 大手企業の傲慢!
いやはや。内部情報のリークもあって、大騒ぎになったようだね!」
「大きな組織ほど、細かいところに目が届きませんからね。仕方がない事だとは思いますが、実際に被害に遭った方たちにしてみれば、けして許せない事でしょう。
ですが、関係のない人までが大きく騒ぎ立てるのは……品がありませんよね」
探偵からの報告を聞いてから数日。
世間は世界最大手の冒険者ギルドの不正を大きく責め立てていた。
埼玉の冒険者ギルドは後手に回り、出し抜かれてしまったようである。
俺と四宮教授は一緒に朝食をとっているが、テレビからは今回の問題に対する各種コメントが厳しいものばかりで、純粋に食事を楽しむ雰囲気ではない。
これには思わず苦笑いするしかない状態である。
「テレビ局に、冒険者ギルドを擁護するように依頼しなくて良かったのかね?」
「まぁ、良いんじゃないですか。下手に口をはさむと、余計にこじれるような気もしますし。
こちらの渡した情報を上手く使って、ギルドが「まったくの無策ではなかった」と言い張るぐらいでいいかなと。
実際、不正は存在したわけですし」
「ふむ。冒険者ギルドの味方をすると決めた割には少々手ぬるいというか、中途半端であるな。もう少し手を貸してやった方が良さそうにも思えるのだよ?」
「貸しますよ? ただ、一から十までこちらがお膳立てをしていくわけにもいきませんし、むしろ私らよりも大きな企業なんですから、自力でどうにかしていただかないと。
自分の会社じゃありませんからね。これからも変わらずに取引を続けるぐらいの距離で、ちょうどいいんじゃないかと思う次第です」
冒険者ギルドが大変な事になっている。
株価は大きく下落し、売りが続いている。
だから四宮教授は味方を主張するのならもっと手を貸そうと言うけど、それはやりすぎじゃないかなと、俺は思う。
冒険者ギルドは世界中に支部を持つ大きな企業なので、日本の一支部の従業員がやらかすぐらい、言うほど大きな問題とも思えないし。
そりゃ、人が大勢いるなら腐ったミカンも混じっているさ。
確かに今は大騒ぎしているが、そのうち騒ぎも収まるだろうし。
株価の低下とかも一時的なものだろうから、もう少し下がったところで手を出すのもアリじゃないかな。
空売りをやったらインサイダーを疑われるかもしれないけど、底値で買うぐらいなら怒られないだろ。
俺としては、その程度にはギルドを信用している。
やる事があるとすれば、叩かれている時でも態度をこれまでと変えず、離れていかないことぐらい。
助けを求められたときに手を貸すぐらいが、普通だと思うわけです。




