対策会議・探偵
「反冒険者ギルド団体?」
「はい。今回の騒動には、そういった思想の集団が隠れていました。
冒険者ギルドの職員に犯罪行為をするようそそのかし、その信用を失墜させる。それが連中の目的のようです」
ラスダン方面でいろいろと手を回していたが、それとは関係なく、探偵たちに依頼していた調査の報告が来た。
史郎経由で回ってきた、冒険者ギルド職員がこそこそと動いているダンジョン解放運動の調査報告だ。
彼らは真面目に調査を行い、しっかりとした結果を出していたのだ。
正直、そこまで重要性の高い依頼ではなかったので、少し忘れていたのは内緒である。
ただ、調査して分かった事は、俺とは全く関係ない出来事だったという微妙な内容である。
敵だと思っていた相手が敵ではなく、こちらを巻き込んだ迷惑な相手ではあるものの、あえて排除する必要もないという、しょうもない結果。
ただでさえ優先順位の低い話だったというのに、さらにやる気が削がれてしまう。
「組織の中の一個人とはいえ、それがトップでなかろうが犯罪者が出てきてしまえば組織の信用にかかわります。組織の中で自浄作用が働いていないとなれば、相応の責任があるとみなされますので。
実態は違いますが、冒険者ギルドは現在の市場を独占しているようにも見えますからね。ダンジョン市場に参入したい者たちにとっては目障りなのでしょう。市民団体の資金の流れから見ても、おおよそ間違いないと思われます。
安定した状態では新規参入が難しいので、とにかく引っ掻き回すのが目的とも言い換えられます」
「……対抗策は、史郎に協力すること、か」
「それも一概に正解とは言えないのでは?
言葉は悪いですが、それで被害を受けるのは冒険者ギルドであり、御社などではありません。敵の勝利条件がこちらの敗北条件と一致するわけではありませんので。
協力するかどうかは先方の出す条件によりますが、あえて協力しないというのも一つの選択肢かと。市場が多少混乱しても、そうなると分かっていれば我々が利益を確保するのは難しくありませんよ」
それで、これ以上深く関わったところでこちらにメリットは特に無いと、探偵は言い切る。
逆に、冒険者ギルドに味方するかどうかを考え直してもいいのではないかと、そんな提案までしてきた。
そんな提案だが、探偵さんもこちらの経営状態とか協力関係について深く知らないため、そういう方法もあるという世間話レベルの態度である。
本気で冒険者ギルドと縁を切るべきだという考えではなく、第三者としての意見だ。
俺の立場が「冒険者ギルドの協力者」ではなく、「市民団体から被害を受けかねないダンジョン系企業経営者」だからだろう。
下手に偏った思考で結論を出すのは良くないと、そういう忠告になる。
自分たちと冒険者ギルドの関係は、そこまで悪くない。
史郎たちとはトラブルがあったものの、それはすでに昔の話だ。あの一件では、何年も引きずるほどの被害を受けていない。
冒険者ギルドそのものと喧嘩をした事は無く、あの絡んできた職員にはマイナスの印象があるけど、言ってしまえばそれまでだ。わざわざ敵対したいと思わない。
そして一部の冒険者ギルドからはそれなりに恩恵を受けているので、仲が良いと言えなくもない。
ゴーレムの魔石なんかは埼玉の冒険者ギルドの管理するダンジョンで安定して稼がせてもらっているけど、それに協力してもらっている。
ここで冒険者ギルドにダメージが入った場合。そういった協力関係にある人たちとの縁が切れかねないのはデメリットだ。
付け加えると、連中の思惑が上手くいったと仮定した場合。
立ち回り次第で大きな金銭を得られるけど、それが損失に見合うものかどうかは分からない。
連中の新しく立ち上げる組織とうまく付き合えるかも分からない。
何より、連中はこちらに被害が出ても構わないという形で行動しているため、俺はすでに連中を半分ぐらいは敵という認識をしている。
騒いでいる連中を潰し、そこから利益を確保する方が心情的にも都合が良いと思う。
「他の出資者とも協議するけど、基本的には冒険者ギルドと連携するよ。そのつもりで動いてくれると嬉しい」
「わかりました。引き続き、調査を行います」
まぁ、今回は複数の企業と連携して動いているからね。
メイン出資者が俺たちであることは間違いないけど、そこまで俺個人の判断で動けるものでもない。
自社利益のため、騒ぎを起こすような連中とは戦う所存ではあるが。他の企業はなんて言うかな?




